【中国】【23年の10大ニュース】想定よりも伸びなかった1年[経済] 5%成長も、コロナ後遺症色濃く

今年の中国経済は年後半にやや上向き、政府が設定した経済成長率目標(5.0%前後)の達成はほぼ確実だ。ただ数字ほどの景気回復は感じられないという声も多く、新型コロナの“後遺症”が長引いている印象は拭えない。一方、政府が打ち出す各種の景気刺激策は好材料で、来年にも効果が広がると期待されている=上海市

今年の中国経済は想定よりも伸びなかったと言える。政府が昨年末に新型コロナウイルス対策を大幅に緩和したことで、今年の年初は国内の経済活動が活発化。中でも消費の回復が鮮明化した。ただ好況は続かず、財消費は力強さを失い、中国経済の足かせの一つとなった。新型コロナ後も企業の収益が伸びず、雇用や賃金の見通しが悪化したことが消費を下押しした。近年続く不動産業界の不振や主要国の景気低迷を背景とする外需の落ち込みも中国経済の重しとなった。

ただ政府が各種の景気刺激策を打ち出したことを追い風に、年後半の経済はやや上向いた。今年の経済成長率に関する政府目標(5.0%前後)の達成はほぼ確実だ。とはいえ、「数字ほどの景気回復は感じられない」(日系関係筋)という声も多く、新型コロナの“後遺症”が長引いている印象は拭えない。

平和友好条約発効から今年45年を迎えた日中の関係も難しい局面にある。市場の巨大さなどさまざまな魅力を持つ中国で、日系企業は今後の経営を巡って難しいかじ取りを迫られている。

■【第1位】年後半に経済上向き、目標達成へ

雇用や所得の見通しが芳しくないことに伴う消費低迷、在庫調整の長期化を受けた企業の受注減、民間企業による設備投資の停滞、不動産投資と住宅市況の冷え込み——。今年の中国経済は複数の逆風に見舞われた。一方、政府による各種の景気刺激策が年後半から効き始め、経済状況はやや改善している。

今年の四半期別の実質国内総生産(GDP)成長率は、1~3月期が前年同期比4.5%となり、2022年10~12月期から1.6ポイント拡大。4~6月期は6.3%で、四半期としては21年7~9月期以降で最高を記録した。ただ高い成長率の背景には前年同期の低迷によるベース効果があり、4~6月期の中国経済に数値が示すほどの力強さはなかった。

それでも7~9月期はやや好転。成長率は4.9%で、4~6月期から鈍化したものの、ベース効果を排除すれば持ち直したといえる水準。政策支援に加え、秋の大型連休の外出増加が消費を押し上げ、力強さに欠ける設備投資、主要国の景気悪化を背景とする外需低迷を補った。

23年1~9月期のGDP成長率は前年同期比5.2%だった。10~12月期の成長率が前年同期比4.4%以上となれば、5%前後とする通年の政府目標を達成できるとされる。10月以降の主要経済指標を見ると、目標達成はほぼ確実だ。

■【第2位】内需のてこ入れに注力、あの手この手

「5%前後とする今年の成長率目標の達成は容易ではなく、一層の努力が必要だ」。3月に首相就任後初めて記者会見に臨んだ李強氏はこう述べて危機感をあらわにした。以降は減税などを含む企業の負担軽減策、企業・産業支援策、消費券発行などの消費てこ入れ策、不動産業界支援策などさまざまな経済政策が打ち出された。

秋にはインフラ投資資金を増やす措置を発表。国債発行額を1兆元(約20兆円)増やし、増発して調達した資金を全て地方に移譲する方針を示した。今夏に各地で発生した洪水など自然災害の被災地の復興や防災措置などに充てる。1兆元のうち、5,000億元は今年、残り5,000億元は来年それぞれ使われる予定。市場では、国債増発を通じたインフラ投資拡大が、内需拡大や経済見通し改善などにつながり、年末から来年にかけての経済を押し上げる原動力になるとの指摘が出ている。

12月に開かれた中国共産党の中央政治局会議と共産党・政府の中央経済工作会議では、来年も積極的な財政政策と穏健な金融政策を続ける方針が打ち出された。政府は新しい企業負担軽減策も打ち出す方針で、来年の成長率は4%台後半から5%台になるとの見方が多い。

■【第3位】習指導部、3期目が本格始動

今年3月に開かれた第14期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で、習近平国家主席の3選が決まった。習氏は「社会主義現代化強国の建設のため努力、奮闘する」と宣誓。全人代では首相や閣僚らも選出され、新指導部が本格始動した。

習氏の3期目の任期は28年春まで。国家主席の任期は連続2期10年までだったが、18年の憲法改正で任期制限の規定が撤廃された。

国家副主席には韓正・元国務院副総理(副首相)、国務院総理(首相)には李強氏が就任した。

国政助言機関の全国政治協商委員会の主席には、共産党最高指導部に当たる政治局常務委員の一人、王滬寧氏が選ばれた。

全人代では国家機構の改革を行うことも決まった。政府は全人代の決定を受け、デジタル経済の振興やデジタルインフラの構築を統括する「国家データ局」を新設。政府の各部署が個別に行っていたデジタル分野の政策を一本化した。金融分野では、中国銀行保険監督管理委員会を基に証券を除く金融業界の監督・管理を行う「国家金融監督管理総局」を設立した。金融リスクの防止を図る。

■【第4位】底見えぬ住宅市場、繁栄期に終止符か

今年も住宅市場は底が見えないまま終わった。住宅を中心とする不動産販売面積と不動産開発投資はともに低迷が続いた。中国では、住宅は「最も簡単にもうかる投資ツール」として認知されてきたが、住宅購入を通じて資産を簡単に増やせる時代は終焉(しゅうえん)を迎えたとみられる。

業況が底打ちしない状況を見て、政府と中国人民銀行(中央銀行)は8月末から9月初旬にかけて住宅購入制限の撤廃や住宅ローンの利用規制緩和を進めた。だが、それでも業況が大幅に上向くことはなかった。

現在の住宅不況には、先高観の消失が大きく影響している。以前は住宅価格は上がり続けるという確固たる見通しがあり、消費者は早めに住宅を購入することで資産を増やそうとし、こうした動きが旺盛な住宅需要を形成していた。だが近年は、住宅価格の見通しが不透明となり、消費者の住宅購入意欲が低下した。新型コロナによる収入見通しの悪化も住宅需要を下押ししている。

市場では来年の不動産販売面積と不動産開発投資がともに前年から5%前後減少するとの見方が出ている。不動産調査会社は「住宅販売面積はかつての年15億平方メートルから年10億平方メートルの時代に突入した」と指摘した。

中国経済の成長は不動産業界のダイナミックな都市開発・不動産販売に支えられてきた部分があり、今後は他分野の成長で不動産業界の規模縮小を補う必要がある。

■【第5位】消費市場が回復、旅行増加

今年の消費市場は数字上、好調を示した。1~11月の小売売上高は前年同期比7.2%増。11月の小売売上高は前年同月比10.1%増となり、6カ月ぶりに10%超えを記録した。毎月の伸び幅は8月以降拡大を続けている。

足元の消費回復は旅行・外出の増加に支えられている部分が大きい。4年ぶりに行動制限のない状態で学校の夏休み期間や秋の大型連休を迎えたことで、旅行・外出が増加し、宿泊、飲食、交通分野の消費を押し上げた。キャンプ、音楽ライブ、マラソン大会などの分野の消費も拡大した。

だが、大幅増の背景には前年同月の数値の低さもあり、必ずしも楽観できない状況だ。

雇用と収入の見通しはまだ改善しておらず、市民の財布のひもはまだ固い。可処分所得の中から貯蓄に回した比率を表す貯蓄率は依然高く、23年1~9月は34%で、新型コロナ前の19年(30%)よりも高かった。20年以降の累計貯蓄額は53兆元に上る。

中国の消費市場が新時代に突入したとの見方も出ている。消費市場が年10%以上成長する時代は終わり、5%前後の成長が続く安定成長時代に入ったとの指摘だ。ただ長期的に市場が成長する流れは変わらず、成長率が鈍化しても、中国の小売額は5年後に現在から10兆元増えるとみられている。

中間層の拡大が消費の増加に寄与。年間世帯収入が16万元を超える世帯数は、22年の1億4,800万世帯から25年に2億世帯、30年に2億5,900万世帯に拡大するとみられている。

■【第6位】輸出低迷、通年は7年ぶりマイナスへ

外需の低迷が中国経済の足かせとなった1年だった。中国税関総署によると、1~11月の輸出は前年同期比5.2%減の3兆774億米ドル(約438兆円)で、通年は7年ぶりのマイナスとなる公算が大きい。先進諸国の景気がインフレを受けた利上げで低迷したことが響いた。

中国の年間輸出が最後に前年比マイナスとなったのは16年。17年以降は増加を続け、特に新型コロナ流行期の20~22年は内需の弱さを補う役割を担ってきたが、今年は“けん引役”から“足かせ”に変わった。

1~11月のうち単月の輸出が前年同月比プラスとなったのは3月、4月、11月のみ。このうち4月と11月は前年同月の数値の低さが影響した側面があり、実質的には今年の外需はほぼ終始低迷したといえる。

24年は一定の改善が期待できるとの声が多い。先進諸国の景気回復を背景に中国製品の需要が回復するとみられているためで、前年比はプラスに戻る可能性が高い。

だが、国別で最大の輸出先となる米国ではインフレ圧力が根強く、利下げとそれに伴う景気拡大が想定ほど順調に進まない恐れもある。中国の内需が24年も低調に推移する可能性が十分にある中、外需が内需の弱さを補えるだけの盛り上がりをみせるかは不透明な形勢だ。

■【第7位】入境規制緩和、往来回復の流れ

中国本土入境時の隔離措置やPCR検査がなくなったことで、人の往来が回復している。国家移民管理局のデータを基にすると、今年第3四半期(7~9月)の出入境者数は前年同期比5.5倍の1億2,300万人(延べ人数、以下同)で、19年同期の73%の水準に回復した。

1~9月の出入境者数は2億9,100万人で、うち外国人は1,937万4,000人。外国人は第3四半期の人数が1,093万6,000人に上り、年後半に入ってから往来が急激に増えていることが見て取れる。

中国政府が海外団体旅行の解禁に踏み切ったことも出入境者数を押し上げた。政府は新型コロナ流行を受けて海外への団体旅行を禁止していたが、今年は解禁を進め、現在までに138カ国への団体旅行を可能にした。8月には日本への団体旅行を約3年半ぶりに解禁した。

国際航空線の運航数も回復しており、中国航空大手の中国東方航空は年内に自社の国際線運航便数が新型コロナ前の8割に戻るとみている。来年には国際線市場が完全に回復するとみられる。

■【第8位】伸びる自動車販売、3000万台時代か

中国自動車市場は好調に推移した。中国自動車工業協会によると、今年1~11月の新車販売台数は前年同期比10.8%増の2,693万8,000台で、既に昨年通年を上回った。通年の販売台数が前年比プラスとなるのは3年連続。史上初となる通年3,000万台も視野に入っている。今年たびたび発生したメーカーの値下げ競争と政府の自動車購入促進策が販売台数を押し上げた。

「新エネルギー車(NEV)」が全体の伸びを支え、1~11月の販売は36.7%増の830万4,000台。11月は単月として初めて100万台を超えた。1~11月の自動車輸出は58.4%増の441万2,000台となり、通年では日本を上回って初めて世界一になる可能性が高い。世界的に電動車の需要が高まる中、中国メーカーの欧州や東南アジア諸国連合(ASEAN)での販売拡大が目立った。

来年の自動車市場もNEVを中心に好調が続くとみられ、新車販売は3,100万~3,200万台、輸出は520万~580万台になるとの見方が出ている。将来的には年間販売が4,000万台に到達する見通しだ。

一方、今年は市場競争の激化に伴い、企業淘汰(とうた)期に入ったとみられている。今後は主に新興NEVメーカーの淘汰が進み、上位メーカーがシェアを拡大すると考えられている。

■【第9位】平和友好条約45年、友好・協力重視

「再会できてとてもうれしい」。中国の習近平国家主席は11月、米サンフランシスコでの日中首脳会談で、岸田文雄首相にこう語りかけたと伝えられている。日中首脳会談は昨年11月にタイで実施して以来約1年ぶり。習氏は両国の友好と協力を重視する考えを表明した。

日本と中国は10月23日、平和友好条約発効から45年を迎え、岸田首相と李強首相がメッセージを交換。李氏は「新しい時代の要請にふさわしい中日関係の構築に取り組みたい」とした。北京の釣魚台迎賓館でも記念式典が開かれた。

日本貿易振興機構(ジェトロ)が11月発表した2023年版の「海外進出日系企業実態調査」によると、今後1~2年の中国での事業拡大意欲は27.7%となった。比較可能な07年以降で初めて3割を下回った。一方で第三国への移転・撤退は0.7%にとどまり、ジェトロは「政策などを含め厳しい局面にある中でも、引き続き中国市場を重視する日系企業が多数だ」と分析した。

■【第10位】大半がコロナ感染か、足元は低水準

新型コロナウイルス対策が緩和、撤廃されたことで、中国では昨年末から年初にかけて感染が爆発的に拡大した。中国疾病予防コントロールセンターの専門家は、今年1月末時点で国内の80%の人が新型コロナに感染したとの見方を示しており、約11億3,000万人が感染した計算となる。

ただ2月以降は、爆発的な感染拡大が確認されなかった。当初は人の往来が増える春節連休(旧正月連休、今年は1月21~27日)後に感染が拡大すると懸念されていたが、杞憂(きゆう)に終わった。

足元の感染は小規模で、国内の指定医療機関が実施する新型コロナ検査で陽性反応が出た人の比率は最新11月27日~12月3日が1.2%。昨年末から今年年始にかけての第1波のときは60%を記録していた。11月の新型コロナに起因する死亡者は1桁台まで減った。

感染が広がらなくなったのは、多くの人が抗体を獲得したためとされる。新型コロナウイルス感染症を風邪ととらえる人が増え、体調を崩しても感染の有無を検査しない人が増加したことも統計上の感染が小規模になった一因。

一方、年末にかけてはインフルエンザなどの呼吸器疾患が流行。マスクを着用しなくなった影響が出ているとみられている。

■【番外編】AI事業が加速、注力する企業増加

今年は中国で人工知能(AI)分野での動きが目立った1年だった。京東集団(JDドット・コム)、百度(バイドゥ)、阿里巴巴集団(アリババグループ)、商湯集団(センスタイム)をはじめとする中国IT大手が利用者の指示で文章や音声、画像などをつくる生成AIや対話型AIのサービスを発表した。

AIを今後の事業の柱にすると明言する企業は多い。AI市場が将来的に巨大市場を形成することが背景にあり、米コンサルタント会社マッキンゼー・アンド・カンパニーがまとめた報告によると、今後の生成AIの普及は中国に計2兆米ドルの経済効果をもたらす。昨年のGDPの1割以上に当たる規模。生成AI以外も含めた全てのAIが中国にもたらす経済効果は6兆米ドルになる。生成AIの普及は生産活動の自動化を強力に後押しし、2030年には産業界の自動化率を5割に引き上げ、知識労働者を含む2億2,000万人の労働が自動化される見通し。

米調査会社IDCが中国企業に実施した調査では、生成AIについて34%が「応用を検討している」と答え、33%は「既に資金の投入を進めている」と回答。7割は「今後3年で生成AIへの投資を2~4割増やす」と答えた。

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