【動画】パキスタン・ダードゥで洪水後の対応を終え、MSFは地元に医療活動を引き継ぐ——日本人リーダーの言葉は

パキスタン・シンド州で大洪水後の各種援助活動を続けてきた国境なき医師団(MSF)は11月末、ダードゥ地区の洪水被災地における栄養、マラリア、皮膚リーシュマニア症の活動を、地域の保健当局とNGOに引き継いだ。

ダードゥでコミュニティの状況を地図に書き込みながら話し合うスタッフら=10月31日  © MSF

「MSFは緊急対応を行う医療・人道援助団体であり、切実なニーズがある場合に現場に入って活動します」と、ダードゥのMSFプロジェクト・コーディネーターの上西里菜子は言う。

「医療へのアクセスに課題が残るこの地区で、私たちのチームは、2022年の壊滅的な洪水の緊急段階とその余波の中で、医療ニーズに対応しました。1年以上にわたって援助活動を行った後、現在はこの活動を引き継いでいます」

始まりはリーシュマニア症支援、そこに重なった洪水

2022年6月、同州保健省はMSFに対し、ダードゥで発生した皮膚リーシュマニア症の活動開始を要請した。その活動を始めてから数週間で、パキスタンで壊滅的な洪水が発生。ダードゥ県のあるシンド州は最悪の被害地域のひとつとなった。

MSFは直ちに活動を拡大し、緊急医療、清潔な水と衛生設備へのアクセス、洪水の影響を受けた人々へのメンタルヘルス面での支援を行った。

「ダードゥの大部分、特にジョヒは水没しました。道路は壊滅的な被害を受け、MSFのチームは遠隔地まで車で行くことができなかったため、洪水被災者のもとにボートで向かいました。MSFは2つの移動診療所を設置し、呼吸器感染症、下痢、皮膚病などの治療にあたりました」と、ダードゥの医療チームリーダーのアブドッラーは言う。

洪水で道路が使えなくなり、人びとが頼ったボートによる移動=2022年9月26日  © Zahra Shoukat

飲み水を確保

MSFのチームは、2022年9月から2023年2月にかけて500万リットルの水を配給し、50台の手押しポンプを設置した。ジョヒでは、MSFが逆浸透膜プラントを設置して塩水を浄化し、真水の飲料水を確保した。

医療を提供するため、2つの移動診療チームが組織された。MSFは6カ月間にわたり、ダードゥ、ジョヒ、KNシャー、メハールの4地区で、2万7726件の診察を行うとともに、衛生キットを含む2万7千点の救援物資、8万2480張のテント、毛布、台所用品を配布した。

ダードゥで現場に立つ上西(中央)  © MSF

緊急事態が終わっても続いた支援

緊急段階が終了すると、MSFの医療チームは、5歳未満の子どもたちの間で高まっている重度の急性栄養失調に対処するための新たな活動を始めた。また、洪水でできた、たまり水が原因となったマラリア患者の増加に対処した。

2023年11月までに、5歳未満の子ども2034人と妊産婦299人を治療した後、MSFは栄養失調への対応をピープルズ・プライマリーヘルスケア・イニシアティブ(PPHI)に引き継いだ。

MSFは、1万2108人のマラリア患者を治療した後、マラリア治療薬の在庫と迅速診断テスト(RDT)を保健省に寄贈し、マラリア患者がダードゥの保健施設で診断・治療できるようにした。

10月末には、89人の皮膚リーシュマニア症患者を治療したのち、MSFはメグルミン注射を含む活動、医薬品、検査用品を地元の病院に引き渡した。MSFチームは、患者の診断と臨床管理について、保健省のスタッフ20人に研修を行った。

パキスタンでのMSFの活動は

MSFは1986年にパキスタンで活動を開始し、現在ではバルチスタン州、パンジャブ州、ハイバル・パフトゥンハー州、シンド州で、緊急に必要とされる質の高い医療を無料で提供している。MSFはパキスタンの保健当局と協力して活動している。パキスタンでのMSFの活動は、民間からの寄付金のみによって賄われており、政府からの資金は受けていない。

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