社説:公安「捏造」捜査 違法の検証と再発防止策を

 なぜ冤罪(えんざい)を生んだのか。警察と検察は判決を重く受け止め、検証を急がねばならない。

 生物兵器製造に転用可能な装置を無許可で輸出したとする外為法違反罪などに問われ、後に起訴が取り消された「大川原化工機」(横浜市)の社長らが東京都と国に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は双方に計約1億6千万円の賠償を命じた。

 判決は、警視庁公安部の逮捕、東京地検の起訴を「合理的な根拠が客観的に欠如していた」「必要な捜査を尽くさなかった」と批判し、違法と断じた。

 無実の国民にぬれぎぬを着せ、長期の身柄拘束で自由を奪った警察と検察は、社長らに謝罪と救済を尽くすべきだ。

 装置は霧状の液体を熱風で粉末化する乾燥機で、規制対象の「滅菌または殺菌できるもの」に該当するかが争点だった。

 裁判で浮き彫りとなったのは、「筋書きありき」で進めた捜査の恐ろしさである。

 判決では、公安部は従業員らの取り調べで、完全な殺菌はできないとの説明を事前に受けながら、必要な実験をしなかったと指摘した。現場の捜査員は実験を幹部に求めたが、受け入れられなかったという。

 逮捕した3人のうち1人に対し、捜査員が事件の解釈をあえて誤解させるような取り調べをした点も違法とした。

 筋書きから外れる証言を排除し、強引な捜査に突き進んだ組織体制が病巣を抱えていることは明らかだろう。証人尋問に出廷した公安部の現役捜査員が事件を「捏造(ねつぞう)」と証言したことも、異常性を示している。

 政府が先端技術の国外流出を防ぐ「経済安全保障」の強化を掲げる中、2021年版警察白書は、不正輸出対策の事例として立件をアピールした。過激派らの事件が減り、外事分野で存在感を発揮したい公安の思惑が、誤った捜査へと走らせたのではないか。

 検察は、警察が集めた証拠の信憑(しんぴょう)性をチェックする本来の役割を果たせなかった。経済産業省も正当な経済活動を守る立場でありながら、省令で「殺菌」の定義を曖昧にしたまま捜査を容認した。公安分野や政権方針への忖度(そんたく)はなかったか。

 容疑を否認すると、長期の身体拘束が続く「人質司法」への厳しい反省も不可欠だ。

 社長らは潔白を訴え何度も保釈を求めたが、認められなかった。1人は勾留中にがんを患い、名誉が回復されないまま亡くなった。保釈請求を退け続けた裁判所の責任は免れない。

 検証は幅広い観点が必要だ。

 19年参院選の大規模買収事件で検察の供述誘導があったとされる問題では、最高検が取り調べを「不適正」と公表した。

 国民の信頼を回復する上でも、全ての取り調べで録音や録画、弁護士の立ち会いなどの可視化が求められよう。

© 株式会社京都新聞社