給料は上がる? 物価高は落ち着く? 2024年日本経済はどうなるか

2020年から始まったコロナ禍が落ち着きをみせた2022年。今度はロシアがウクライナに侵攻し、世界的なインフレ局面を迎えました。2023年になると日本も世界に遅れながらもインフレ局面に突入し、10月からはイスラエルとハマスの戦争がはじまりました。依然として2つの戦争は終わりが見えないなか、新たな1年を迎えました。米国の大統領選や台湾の総統選もあり、混迷の1年となりそうですが、日本経済はどうなっていくのでしょうか。


日本の物価は上昇を続けるのか

長らくデフレ経済に苦しんできた日本国民がインフレを実感する1年となった2023年。最新のデータをみてみましょう。総務省が発表した2023年10月の消費者物価指数は前年同月比+3.3%となっています。総務省によれば、日本政府による「電気・ガス価格激変緩和対策事業」の影響で全体が0.49%押し下げられていると試算されており、実際には足元の日本の物価上昇率は前年同月比で4%弱の伸びと考えてよいでしょう。

「すでに日本はデフレを脱却したのだから、早々に金融緩和は解除して利上げをし、財政もコロナ禍の非常事態モードから脱却して緊縮すべき」との声も多くあがっていますが、私は政策を誤れば日本は再びデフレに戻ると考えています。これは2022年4月に出版された拙著『スタグフレーションの時代(宝島新書)』のなかでも述べた通りで、政策を誤れば日本はスタグフレーションのあとにデフレに戻ると1年以上前から警鐘を鳴らし続けています。

この1年間は国民の多くがインフレに直面していたこともあり、私の説は不評でしたが、日本銀行が発表した2023年11月の企業物価指数が前年同月比+0.3%と2年9カ月ぶりの低水準となり、11か月連続で伸び率を縮小していることや、貿易相手国首位の中国においては消費者物価指数も生産者物価指数もともにマイナスの伸びとなり、デフレ懸念が生じていることを考えれば、私の仮説がそこまで的を外したものではないことがご理解いただけるかと思います。

賃上げは格差社会をもたらすのか

極端なことをいえば、物価がどれだけ上昇したとしても、賃金がそれ以上に上昇していれば問題はないのですが、実際はそうはなっていません。厚生労働省が発表した2023年10月の毎月勤労統計(速報)によると、実質賃金は前年同月比-2.3%となっており、19カ月連続でマイナスの伸び率を記録しました。物価上昇に賃金の伸びが追いついていない状態が続いていることになりますが、こうなると消費は伸びません。総務省が発表した2023年10月の家計調査によれば、2人以上の世帯が消費に使った金額は前年同月比-2.5%となり、8か月連続でマイナスの伸び率を記録しています。実際にスーパーで買い物をしていても、プライベートブランドの商品や、見切り品として値下げされているものばかりが買われている印象を持ちます。

消費が伸びなければ企業の売上は伸びませんから、賃上げをする原資が用意できません。2023年の春闘では30年ぶりの高水準となる3.6%の賃上げが実現しましたが、足元で家計が節約に走っている現状を考えると、2024年も同様に高水準の賃上げができるのは資金力に余裕があったり、価格転嫁するパワーを持っていたりする大企業に限られ、価格転嫁がうまくできていない中小零細企業は厳しく、結果として就業先の会社規模によって格差が生じてしまうでしょう。

2024年のドル円相場は米国次第?

物価や賃金について考える場合、輸入物価や企業業績に影響を与える為替についてもある程度の見通しを持つ必要があります。2023年は円安の1年となりましたが、2024年は円高方向を意識するような展開になるかと考えます。私自身は2023年にそうなると予想していましたが、1年ほどズレてしまいました。そのシナリオは以下の通りです。

日本では前述の通り、「インフレ局面に突入したからこそ金融政策を正常化すべき」という意見が多く、実際に植田総裁をはじめ、日銀関係者もその第一歩となるマイナス金利の解除について言及することが増えてきました。複数回にわたるYCCの柔軟化はすでに金融政策の修正が始まっているともいえるのかもしれません。

一方で、米国では短期間に金利を大きく引き上げたことによる景気減速という副作用を懸念し、市場では来年の5月から利下げ局面に突入し、年内に5回の利下げが行われることが予想されています。

仮に日本が金融政策を正常化し、米国は利下げ局面に突入するということになると、日米の金利差は縮小していくことになります。元々、ドル円相場と日米金利差は相関関係が強いという指摘はありますが、特にこの1~2年はその相関関係が強まっていることもあり、故に2024年は日米の金融政策の方向性が反対になるため、円高方向になると予想するのです。

ただし、日本では内需が弱く、最大の貿易相手国である中国にデフレ懸念があることを考えると、本当に日銀が金融政策の正常化をスムーズに進められるのかは怪しい部分がありますし、米国では利下げをするほど経済が弱いのか、と思うほど経済が堅調であることを考えると、果たして前述のように1年で5回もの利下げを行うとは考えにくいといえます。そうなれば、基本は円高方向に動くというシナリオは維持するものの、その速度はそれほど急激なものにはならないと考えます。

住宅ローンに影響を与える金利の行方

金利の話になりましたので、最後は多くの方が気にしている住宅ローンについてです。住宅ローンには大きく分けて固定金利と変動金利の2種類がありますが、日本で利用者が多い変動金利に適用される金利は銀行が提示する「短期プライムレート」に連動します。現時点では日銀はマイナス金利政策を維持する一方で、YCCの柔軟化をしましたので、10年国債の利回りは一時期に比べれば上昇していますので、固定金利には上昇圧力がかかっていますが、変動金利には影響は出ていません。

今後、日銀が本当に金融緩和を解除し、利上げをすることになると、いよいよ変動金利に適用される金利も上昇していくことになりますが、適用金利が変わっても5年間は毎月の返済額は変わらない「5年ルール」や、毎月の返済額は従来の1.25倍までしか増えない「125%ルール」があるため、毎月の返済額が金利の上昇に伴い青天井に増えていくという不安を抱えている人は安心してください。

とはいえ、金利の変化は為替にも影響をあたえ、それが物価にも影響を与え、それが今度は企業業績、賃金などにも波及していきますから、来年はこれまで以上に日米の金融政策にも注目すべきでしょう。

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