最果ての地、探る未来 異変-生態系クライシス~南極から~

白夜の南極。沈まぬ太陽が右から左に移動しながら昇り、観測船「しらせ」を照らす=昭和基地沖(30分間隔で撮影した8カットを「比較明合成」という手法で組み合わせた)

 【昭和基地=報道部・小田信博】薄明の空を、沈まぬ太陽が竜のように昇ってゆく。次第に空は青く澄み渡り、雪原を照らし始める。宇宙よりも遠いとされる地球最果ての地、南極。氷の大陸は短い夏を迎え、日の落ちない白夜に包まれている。

 目の前に広がるのは空と雪と、ほんの少しの露岩だけだ。一人で氷の上に立ち、目を閉じて耳を澄ますと、痛いほどの静寂が身を包む。雑踏の騒々しさも、草木のざわめきも存在しない。現代社会では考えられない無音の世界と、地球そのものの美しさに圧倒される。

 いつまでも変わらないように見える南極だが、地球温暖化などによって変化が生じつつある。大陸の西側を中心に氷床の融解が進み、昨年9月には海氷面積が観測史上最小となった。氷は失われ続けている。いずれは歯止めが利かない臨界点を迎え、数百年にわたって急激な海面上昇が引き起こされる可能性がある。

 南極は人の手が及んでおらず、環境変動に関し貴重な情報を得ることができる。地球の過去を明らかにし、未来を見通すため、日本は半世紀以上にわたり観測隊を派遣し、調査・研究を続けてきた。昨年12月には第65次観測隊(橋田元隊長)が昭和基地に入り、基地や野外で観測を行いながら、極地の現状を調べている。

 日本から南極までの距離は約1万4千キロ。別世界の話に聞こえるが、氷の大陸は大気や海洋の循環といった地球システムに大きな役割を果たしている。世界的な気候危機は南極にも迫っており、今行動を起こさなければ、未来の子どもたちが代償を払うことになる。

 本県も南極とは海や大気でつながり、多くの恩恵を受けている。地球規模の課題だからこそ、一人一人が力を合わせなければならない。厳しくも美しい極地で新たな一年が始まる。未来はまだ、決まっていない。

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 山形新聞は、環境問題の実情に迫る長期連載「異変―生態系クライシス」の一環として、第65次南極観測隊に同行中の報道部・小田信博記者が南極の地で地球のために日本、そして山形で何ができるかを考え、発信する。

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