【能登半島地震】目の前に迫る黒い濁流 津波で転覆漁船 本紙記者ルポ

市街地に押し寄せる津波=1日午後4時42分、珠洲市飯田町

「なんだあれっ」。元日の夕方、突き上げる揺れに襲われ、珠洲市役所に向かうと、防波堤を乗り越えた黒い濁流が見る見るうちに目の前に迫ってきた。一夜明け、波がのんだ現場に足を運ぶと、津波の勢いで転覆した漁船が浮かび、波に流された車がショッピングセンターに突っ込んでいた。あちらこちらに泥にまみれた家屋が見られ、自然の猛威に息をのんだ。(珠洲支局・谷屋光陽)

 揺れが少し収まってきたころ、市役所の前で「急げっ、早く逃げろ」と男性の叫び声が聞こえた。何だろう? 海の方向を見ると、あっという間に波が寄せてき、市職員に「早く早く」と促され、誘導されるまま庁舎に駆け込んだ。

 大津波警報が発令されており、市役所には避難した市民がたくさんいた。3階の危機管理室では、市内の被害状況をつぶさに把握しようと、泉谷満寿裕市長が陣頭指揮を執っていた。

 家屋の下敷きになった市民の救助や、避難所の開設、道路の隆起による通行止めなど、新たな情報が入るや、職員に指示を飛ばす。とても取材どころではない。取り急ぎ、市内の被害状況を写真に収めようと、外に出てみた。

 幸い、津波に巻き込まれた人はいなかったと聞いた。波が引いてから数時間後、注意を払って街中を進むと、港近くの家屋が泥水に浸かっていた。平穏だった街を真っ黒に染める津波の恐ろしさを実感した。

 翌日、被災した住民に話を聞くと、大間玲子さん(65)=同市飯田町=は津波の恐怖と寒さでなかなか寝付けなかったといい、「満足に眠れないで朝を迎え、家の様子を確認したら、泥だらけで車も流されました。先のことを考えられない」とため息をついた。

 金沢市に住み、実家の飯田町に帰省していた会社員の小田久志さん(58)は「市役所に避難する途中で津波が見えた。正月休みに実家でゆっくりしていたのに、こんなことになるなんて」と肩を落とした。2日朝、波にのまれて海に沈んだ漁船や横転した車を見た。これ以上、被害が広がらないことを願うばかりだ。

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