アップル、今年は医療機器メーカーの買収に動くラストチャンス

健康管理機能の実装が遅れ気味の「アップルウォッチ」(Photo By Reuters)

かつては最先端の技術を取り入れた製品を世に送り出していたアップル。最近はライバル製品に遅れを取るケースが目立ってきた。その象徴的な事例が、ウェアラブル情報端末「アップルウォッチ」の健康管理機能。以前から血圧計や血糖値測定などの新機能追加の噂は出ているが、いまだ実現していない。成長市場である健康管理ビジネスに乗り遅れないため、アップルに必要なのはM&Aによるオープンイノベーションだ。

オープンイノベーションに積極的なアップル

実はアップルはオープンイノベーションに消極的なわけではない。確認できるだけでも1988年3月から2023年9月までに127件のM&A(企業の合併・買収)を実施している。2019年5月の米CNBCの取材で、アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は「わが社は平均2~3週間ごとに企業を買収しており、過去6カ月だけで20~25社を買収した」と明かした。実際のM&A件数は1桁多いだろう。

ライバルの米マイクロソフトやグーグルを傘下に持つ米アルファベットが巨額M&Aを繰り広げているのに対し、アップルはIT(情報技術)を中心としたスタートアップ企業の買収に力を入れてきた。同社M&Aの最高額は2014年8月に買収した米ヘッドフォン大手のビーツエレクトロニクスの30億ドル(約4230億円)だ。

一方、マイクロソフトは2023年10月に米アクティビジョンブリザードを690億ドル(約9兆7300億円)で、グーグルは2012年8月に通信機器大手の米モトローラ・モビリティーを125億ドル(約1兆7600億円)で、それぞれ買収している*。


健康管理機能の大半は自社開発か

ただ、健康管理機能関連の買収で明らかになっているのは、2017年に買収した睡眠追跡ハードウェアを手がけるフィンランドのベディットと、2018年に買収した喘息モニタリングを手がける米トゥオ・ヘルスの2社だけ。アップルウォッチに搭載されている心房細動や転倒、血中酸素濃度などの健康管理機能の多くは自社開発によるものと考えられる。

しかし、それが仇(あだ)となっている可能性が高い。2021年に米ブルームバーグや米ウォール・ストリート・ジャーナルが関係者の談話とアップルの社内資料から「2022年に発売されるアップルウォッチで血圧や体温測定機能が追加される可能性がある」と報じた。現実には2023年に発売された「アップルウォッチ シリーズ9」でも未搭載のままだ。

すでに血圧測定機能は韓国サムスン電子が「ギャラクシーウォッチ」で搭載しており、米グーグルもウェアラブル端末「フィットビット」で光電式容積脈波計(PPG)センサーに人差し指を押し付けると血液の流量と抵抗のデータから血圧を測定する機能を開発中という。

しかもアップルは医療技術会社のマシモとの間で、アップルウォッチに搭載された血中酸素濃度センサー技術を巡って長期にわたる知的所有権争いをしている。2023年12月21日には同センサーを搭載した「同シリーズ9」と「同Ultra 2」の販売停止に追い込まれた。


オープンイノベーションでキャッチアップを急ぐべき

こうした開発遅れや知的所有権紛争を解決するためには、医療機器スタートアップの買収を急ぐしかない。アップルには約600億ドル(約8兆4000億円)もの手元資金があり、スタートアップなら好きなだけ買収する余裕がある。

医療測定装置は医療機器なので、血圧や血糖値の測定機能を実装するには米食品医薬品局(FDA)の「510(k)」と呼ばれるプロセスを通じて精度が既存の装置と同等以上であることを証明する必要がある。侵襲しなくても(注射針を刺さなくても)血糖値を測定する技術を持つ米ノウ・ラブスやイスラエルのハガルなどのスタートアップを買収し、オープンイノベーションでアップルウオッチに機能を搭載するのが最も確実で迅速な方法だろう。

先進国や中国など世界的に高齢化が進み、健康管理機能のニーズは拡大する一方だ。アップルもオープンイノベーションでの技術取得を急ぐ必要がある。手軽に生命兆候(バイタル)データを測定・記録・分析するウェアラブル機器の競争は激化しており、2024年がラストチャンスかもしれない。

*グーグルは2013年1月、モトローラ・モビリティを29億1000万ドル(約4210億円)で中国パソコン大手のレノボに売却し、レノボ株の5.94%を取得した。

文:M&A Online

<p style="display: none;>

M&A Online

M&Aをもっと身近に。

これが、M&A(企業の合併・買収)とM&Aにまつわる身近な情報をM&Aの専門家だけでなく、広く一般の方々にも提供するメディア、M&A Onlineのメッセージです。私たちに大切なことは、M&Aに対する正しい知識と判断基準を持つことだと考えています。M&A Onlineは、広くM&Aの情報を収集・発信しながら、日本の産業がM&Aによって力強さを増していく姿を、読者の皆様と一緒にしっかりと見届けていきたいと考えています。

© 株式会社ストライク