マックスも金銭以外で“全力サポート”。フェルスタッペンのマネジャーが語る『息子のレース挑戦』の裏側

 2023年、三度目のF1ワールドチャンピオンの座を早々に決め、その勢いは止まることを知らないマックス・フェルスタッペン。そのマックスの活躍と勝利を、マックスの父ヨスとともに全面的に支えるマックス専属マネジャーのレイモンド・フェルミューレンに、氏の仕事、マックス、そして自身の子息ティエリーが目指すGTプロドライバーへの道について聞いた。(※インタビューは2023年のF1シーズン終盤に実施)

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■ヨス、マックスと相談して17歳からGT4でキャリアを開始

──マックス・フェルスタッペンのマネージャーとして、モータースポーツ界の厳しさを熟知されているあなたですが、ご自身の息子さんのティエリーがプロレーシングドライバーを目指すことになったのはなぜでしょうか?レイモンド・フェルミューレン(以下、RV):私の息子ティエリーは3年前の2020年に17歳で初めてGT4レースに出場しました。それに至るには、フェルスタッペン家が開催していたトラックデーのイベントがきっかけでした。ファンの方たちとGTカーでサーキットを走行したり、同乗してモータースポーツを楽しく体験できるイベントで、確かポルティマオだったと思いますが、ティエリーはその時に初めてポルシェのGT4カーに乗り、レーシングカーのドライブフィーリングを初体験したのです。

2023年、DTMとGTWCヨーロッパ/スプリント・カップに出場したティエリー・フェルミューレン

──あなたはヨス・フェルスタッペンとともにマックスのサポートをしており、幼少の頃からカートで研鑽を積むのが大切であることはよくご存知ですね。RV:息子をF1ドライバーにしたいというような希望はありませんでしたので、彼には幼少期からゴーカートをさせていません。サーキットで開催されているイベント等で他の子どもたちと楽しく遊ぶという感じで充分だと思っていました。ですから、息子が高校生の年齢になって初めてGT4で感じたレーシングカーというものが、感受性の高い年齢の彼にとっては衝撃的だったのではないでしょうか。そして、「どうしても自分でレースをしたい」と言い出したのです。

 しかし私は職業柄、プロのレーシングドライバーになるには、キャリアのスタートが遅すぎることを充分に理解していました。本来なら幼少期からカートを7~8年乗り、ジュニアフォーミュラのF4を経てF3と、インターナショナルなシリーズへと進むのがレーシングドライバーの道筋ですからね。彼はその中の何ひとつとして経験していない。

 またGTのプロドライバーになるにしても、F4やF3まではたいてい同じ道筋を通るのがこの業界では通例とされていますが、息子はカートやF4は一日だけのイベントやテストで乗ったことがある程度でした。それでも彼の意志は強かったので、ヨスやマックスと相談してGT4をやってみることにしたのです。

マックス・フェルスタッペンと、父・ヨスの時代からマネジャーを務めるレイモンド・フェルミューレン(左)

──初レースとなったポルシェ・スプリントチャレンジ・ベネルクスでシリーズチャンピオン獲得とは、予想外の展開だったのではないでしょうか。RV:ルーキーながらもシリーズチャンピオンを取れたことにより、ドバイ24時間レースの後に、ドイツのカー・コレクションのアウディGT3のテストの機会を得ました。彼にとってはその日がGT3をドライブする初めての日でしたが、ダウンフォースやブレーキングにいたく感動し、「GT3にチャレンジしたい!」と強く主張したのです。

 そして、2022年はADAC GTマスターズが次のチャレンジになり、今季(2023年)はスイスのエミル・フレイ・チームへと移籍してDTMとGTWCスプリントカップに出ることになったのです。

──あなたの息子さんはプロのレーシングドライバーになることを強く願っておられますが、この道のスペシャリストとしてはどうお考えですか?RV:言うこと、願うことは簡単ですし、誰にでもできます。しかし、プロとしてのパフォーマンスを見せなければ、プロにはなれない、それだけです。

 ドライバーとしてのパフォーマンスが発揮できなければ、プロではありません。レース活動でお金を稼ぎ、生計を立てる、それがプロです。レーシングドライバーにはアマチュアという道もあります。そちらは立派で高尚な趣味であり、両者はまったく別の意味を持ちます。職業ドライバーとなる道のりは本当に厳しく、常にどのレースでも先頭集団に位置付ける走りをしないことには不可能でしょう。

──でも、息子さんの強い意志にあなたは彼のサポートをすることになったのですね。RV:彼は他のドライバーよりもはるかに経験不足ですが、なんとしてでもプロになるという強い意志を持ってその道に精進することを決心しました。私もこの世界の厳しさは充分知っているし、彼ともその話はしましたが、それでも彼の決心は揺るがなかったので、親としてはもちろんのことですが、この業界のプロとしても彼をサポートすることに決めました。

 周りがどれだけ口頭でのアドバイスをしたりシミュレーターに乗っても、実戦に叶うものはありません。他のドライバーにスタートが大幅に遅れている分、とにかく数多くのレースに出てさまざまな経験を増やさなければなりません。親の目ということを度外視しても、今季の息子は非常に大きな進歩を遂げたと思います。ですが、まだまだ数多くレースを走って経験を積む必要があるのは確かですね。

2023年、GTWCと同時にDTMにもフェラーリ296 GT3で参戦したティエリー・フェルミューレン

──『Verstappen.com Racing』のドライバーとして、ヨスやマックスからのサポートを得ていますね。マックスは「金銭的なサポートは一切していない」とのことでしたが、具体的にはどのような形でティエリーを支えているのですか?RV:私の長年の友人であるヨス・フェルスタッペンを始め、マックスなど、フェルスタッペン家が一丸となって私の息子をサポートしてくれているのは、非常に心強いですね。マックスは息子と一緒に数多くシミュレーターに乗り、事細かにアドバイスをしてくれていますが、最も重要な練習は、本物のレースに出続けることです。

 毎レースが終わると、マックスやヨスらと徹底的にレースの復習と次のレースの準備をします。何が良くなかったのか、どうすれば次は良い方向にもっていくことが可能なのか、みんなで話し合います。

 また、マックスがF1やイベントへの移動中にも息子の様子が分かるように、ライブストリームとライブタイミングは必ず共有し、多忙ながらもマックスは常に息子のことを気にかけてくれています。

 マックスは充分にサポートをしてくれますが、実戦では彼は何もできません。息子がすべての責任をもってレースに挑まなければなりませんし、息子がコクピットに収まったら、もう誰も彼を助けることはできませんから、彼は自分との戦いでもあるのです。

■ベテランと組むメリット

──ADAC GTマスターズを経て、2023年はGTWCヨーロッパ/スプリント・カップとDTMドイツ・ツーリングカー選手権の同時参戦となりましたね。RV:今季のGTWCヨーロッパは、ベテランのアルベルト・コスタと組んでの初挑戦でしたが、ドライバーズランキング総合7位(※スプリント・カップのオーバーオールでは4位)で終えることができました。GTWCのレベルはとても高く、そして、息子と組むコスタのレベルも非常に高い。高いレベルの中で、酷いレースをしたら自分が恥をかくし、チームメイトやチームにも迷惑をかける。だから経験がない分、自分を徹底的に追い込んで貪欲に学ぶ必要があるし、息子はこのシーズンそれに必死に食らいつきました。

 一方でDTMではシングルシーターのように、ひとり一台で戦う。チームメイトにはジャック・エイトケンがおり、こちらもF1まで経験した相当なベテランだけに、彼からも多くの刺激を受け、数多くのことを学びました。

 従って、息子がプロを目指す上での成長過程で、今季のGTWCとDTMという選択は非常に正しかったと考えています。GTWCはレベルがとても高いが、DTMはそれをさらに上回るレベルです。ルーキーながらも、このハイレベルの両シリーズに敢えて飛び込むのはよい選択だったと思っています。両シリーズのレースフォーマットは違えども、ハイレベルのコンペティションに身をもって体験し、貪欲に学ぶ姿勢は非常に大切です。

 GT3カテゴリーは、世界中で非常に多くのレースが開催されており、ヨーロッパではその中でもGTWCとDTMは別格のレベルの高さです。2シリーズに同時参戦することにより、より数多くのさまざまなレーストラックとレースを学べたのではないでしょうか。

バレンシアで行われたGTWCヨーロッパ/スプリント・カップで3位表彰台に立つティエリー・フェルミューレンとアルベルト・コスタ

──息子さんはまだ20歳ととても若いだけに、更なる成長に期待したいですね。RV:一般社会での20歳はとても若い。しかし、モータースポーツ界ではさほど若くはありません。カートやフォーミュラで幼少から充分にレースの経験を積んでいる、息子より若いドライバー山ほどいます。もちろん、20歳という年齢はまだ伸びしろも学びに対してのポテンシャルもあります。だからこそ、次の数年は彼の人生、そしてプロになれるかどうかの重要な年月となる事は間違いないでしょう。

──息子さんはロンドンの大学で昨年までは勉強されていましたが、今季はレースに集中されているとか。RV:息子はレースを始めるのが非常に遅かったうえに、プロになりたいという希望を表明するのも遅かった。したがって、いまは学業よりも実戦を優先すべきだと考え、レースにフォーカスをした年としました。レースの修行が落ち着いたら、学業の続きをしてくれたら親としては嬉しいですね。

──ところで、あなたはマックスのヨーロピアンF3参戦時代はワークスの戦いとなっていたDTMのレースをいつもご覧になっていたかと思います。今季からADAC(ドイツ自動車連盟)傘下となり、そして昨年からはプライベーターにも開かれたGT3マシンでの開催となった新DTMを、レベルを含めてどうご覧になっていますか?RV:ADACのネットワークを活かし、チケットの価格も押さえられており、集客という点でもADACのオーガニゼーションはとても良くできていると思いますよ。サーキットによって変わりますが、フォーミュラ・リージョナルやカレラ・カップ、GT4等、サポートプログラムにもさまざまなカテゴリーが入っていますし、パドックでは子どもから大人まで楽しめるイベントやブースも充実していますので、観客はレースウイークに数多くのレーシングカーを観て、聴いて家族や友人と楽しい週末を楽しめるでしょう。

 クラス1は終わってしまいましたが、DTMのレベルも非常に高く保たれていると感じました。マックスと一緒にゴーカートで戦っていたドライバーたちもいます。BoP(性能調整)に関しては、世界のどのシリーズにも共通していることで、全チームが満足するようなBoPはありません。しかし、世界最大のGT3レースを開催しているSROと協力して、より良いレースになるように努力と工夫がされていると思います。

ホッケンハイムで行われたDTMドイツ・ツーリングカー選手権 スタートシーン

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