両陛下の「御座所」手掛ける企業 斬新な発想の源は「思い」 来春の全国植樹祭へ準備着々/岡山・真庭市

第74回「全国植樹祭」の式典(国土緑化推進機構、岡山県主催)が来年5月26日、岡山市北区の「ジップアリーナ岡山」で開かれる。天皇皇后両陛下をはじめ、県内外から大勢の来賓や来場者を迎えて記念植樹などが実施される。岡山県では57年ぶり2度目の開催となり、着々と準備が進んでいる。

会場で両陛下がお掛けになる「御座所」の背面パネルと入場門の製作を手掛けるのは、同県真庭市下方の建具家具製造会社・佐田建美。2022年のコンペに応募し、両案が採用された。デザインを考案した佐田時信社長(72)は「1級建築士やデザイナーたちがいる中で、まさか2件とも採用されるとは驚いた。以前から職人として持てる力を振るい、皇室のために仕事ができればという強い憧れがあったので、機会に恵まれてうれしく思う」と意気込む。納入に向けてスタッフ一同も渾身(こんしん)の力を込めて取り組んでいる。

パネルは県の三大河川 「吉井川、旭川、高梁川」をコンセプトに、繁栄・成長を象徴する「麻の葉」や河川付近で咲く「桜」「コスモス」の模様を古来の木工技法「組子(細工)」で施している。入場ゲートはCLT(直交集成板)を組み合わせた六角形型のアーチが連なる趣深い構造となっており、いずれも気韻生動たる存在感を放つ。いずれも岡山県が全国最多の生産量を誇るヒノキ材を活用している。

佐田建美は、和室の欄間や障子に用いられてきた組子を美術品に昇華させ、地元の名を冠した「真庭組子」としてさまざまな商品を展開。くぎを使わずに細い木片を組み合わせつくる幾何学的な模様、緻密な装飾は多くの人を魅了し、作品の一つが東京都の名門ホテル「The Okura Tоkyo (オークラ東京)」のロビーを飾る。また「木製スーパーカー・真庭」などユニークな作品も発表。200件以上の国内外のメディアに取り上げられて話題を呼んだ。

世間を驚かせる斬新な発想はどこからくるのだろうか。佐田社長は「形や形式にとらわれず思いを大事にしている。一瞬の思いつきやひらめきで仕上げた作品と、普段から考えを巡らせ、思いを蓄積させてできる作品とは作りこみ、完成度が違う」 と強調する。

植樹祭に向けて公募されたデザインは「岡山県を象徴するもの」がテーマ。「コンセプトになる物語 (ストーリー)が必要」と県内の全27市町村に関連するもので、3本柱になる主題を考えた。その時、地元を流れる旭川を見て、「川は県三大水系を起点に支流が枝分かれして流れ、各市町村の土地をうるおしている」という点に着目。そこから河川付近について調べ、想像を膨らませて作り上げていった。

ゲートに関しては多くの来賓を迎えるため、「縁起の良さ」を強調した作りにしようと、六角形を取り上げた。耐久性に優れた形でもあり、吉祥模様のもととなる亀の甲羅のほか、蜂の巣など自然界ではこの形状が多くある。「六根清浄といった宗教的な思想まで数字の『6』が関連しており、神秘性と強い創造性を感じる」としてこだわった。「採用されたのは、技術や見た目だけでなく、この物語が決め手だったのかもしれない」と話す佐田社長。「時代が変化する中、長く仕事を続けていくにはアイデアを提案する力を持つことが必要とされる。夢や憧れ、目標を持ち、いざチャンスが来た時のためにどう行動するのかが成功の秘訣だと思う」と日々の努力と試行の積み重ねの大切さを述べた。

また、夢を実現する好機を得るきっかけとなった人との縁についてもふれ、「今回応募できたのも、県木材組合連合会と県建築士事務所協会が教えてくれたおかげ」と感謝の気持ちを示す。自身が心に留めているという徳川将軍家の剣術指南役を務めた柳生家の家訓「小才は縁に出会って縁に気付かず、中才は縁に気付いて縁を生かさず、大才は袖すり会うた縁をも生かす」を振り返りながら、「偶然の出会いも大切にしていくといつか深いつながりへと発展する。改めて人とのつながりの大切さを実感している」と語った。

組み立てられたパネルの一部

斬新なアイデアで多様な活躍を見せる佐田社長

御座所背面パネルの制作を行うメンバー

© 津山朝日新聞社