レッドブル&HRC密着総集編:記録を打ち立て両選手権を制した1年。PUの高い信頼性は昨年以上のメンテナンスで維持

 2023年シーズンにレッドブルとホンダ・レーシング(HRC)が打ち立てた記録は、彼らのみならず、F1界にとっても記録的なものとなった。

 最初の記録は、開幕戦からすでに始まっていた。開幕4戦でマックス・フェルスタッペンとセルジオ・ペレスがともに2勝を挙げると、5戦目からはフェルスタッペンが連勝を続けた。F1における開幕戦からの連勝記録は、1988年のマクラーレン・ホンダによる11連勝だったが、ハンガリーGPでレッドブルとHRCはこの記録に並ぶと、続くベルギーGPも制して、開幕12連勝の新記録を達成。最終的に14連勝まで記録を伸ばした。

 この連勝記録とともに、フェルスタッペンは自らが2022年に打ち立てた年間最多勝利数『15』という記録も更新。その数を一気に4つ伸ばして『19』とした。

 このフェルスタッペンの19勝とペレスのシーズン序盤の2勝により、レッドブルとHRCは年間21勝を挙げた。2023年のF1は第6戦エミリア・ロマーニャGPが大雨による洪水のために中止となり、全22戦となった。レッドブルとHRCが2023年に落としたレースは第16戦シンガポールGPのみ。22戦中21勝したレッドブルとHRCは、1988年にマクラーレン・ホンダが打ち立てた年間最高勝率も抜いた。

セルジオ・ペレス&マックス・フェルスタッペン(レッドブル)

 そんななか、2023年のレッドブルの速さには、シーズン中に疑問の声が挙がることが少なくなかった。というのも、フェルスタッペンが575点を獲得したのに対して、ペレスは285点と半分にも満たなかったからだ。

 なぜ、ペレスは2勝を挙げた序盤戦以降、失速したのか。その謎を解く鍵はレッドブルのアップデートにあると考えられる。開幕当初、レッドブルのRB19はすでにライバルを凌駕するほど完成度が高かった。この段階でRB19はペレスにとっても運転しやすい出来だった。

 ところが、シーズン中に行ったアップデートによって、RB19はより速いマシンへと進化していった。レーシングマシンは速くなればなるほど、操作は難しくなる。その速さにフェルスタッペンはついていけたが、ペレスは取り残されてしまったのではないか。さらにその遅れを取り戻そうと無理をした結果、シーズン中盤にミスを連発したと考えられる。

 それでも、ペレスはドライバーズ選手権でフェルスタッペンに次ぐ2位となり、レッドブルにとって2023年はドライバーズ選手権で初の1-2フィニッシュとなる歴史的なシーズンになった。

 そんな1年をクリスチャン・ホーナー代表は「この結果には、信頼性が重要な役割を果たしており、信頼性の高いエンジンを作ってくれたパートナーのホンダに賛辞を贈りたい」と振り返り、HRCへ感謝の言葉を贈った。

レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表(左)とHRCの渡辺康治社長(右)

 2023年からHRCのトラックサイドゼネラルマネージャーとして現場を統括してきた折原伸太郎は、その信頼性の高さの要因として、HRC Sakuraのサポートを挙げた。

HRCのトラックサイドゼネラルマネージャーを務める折原伸太郎

「2023年は2022年まで以上に、パワーユニットをHRC Sakuraに送り返してメンテナンスを行っていました。トラブルは起きていなくても、その兆候のようなものは常に起きていて、それをHRC Sakuraのスタッフがしっかりとメンテナンスして戻してくれました」

 またレッドブルでHRCのチーフメカニックを務めている吉野誠は、ホンダ以外の企業からのサポートに言及していた。

「2023年からパワーユニットには『ホンダ』の文字が復活しました。このパワーユニットはHRC Sakuraで開発され、製造して、レッドブル・パワートレインズとともにサーキットで走らせていますが、中身はホンダの部品だけではありません。ホンダのF1活動に関わってサポートしてくれているすべての人たちに感謝です」

 さまざまな記録をレッドブルとともに打ち立てた2023年のホンダ。2023年からレッドブルでHRCのチーフエンジニアを務めている湊谷圭祐は、こう振り返った。

左からHRCの渡辺康治HRC社長、チーフエンジニアの湊谷圭祐、チーフメカニックの吉野誠

「ホンダが作った記録をホンダが追い越したことは、とても意義のあること。ホンダの一員として、誇りに思います」

 その言葉はホンダのスタッフの気持ちを代弁しているだけでなく、ホンダのF1プロジェクトに関わっている多くの関係者も感じていることだろう。

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