共生社会へ「障害」対話で考える 青森県内初のファシリテーター・溝江広騎さん

青森県初の障害平等研修ファシリテーターとして活動を始めた溝江さん=昨年12月

 脳性まひのため出生時から手足が不自由で現在、電動車椅子で生活を送る青森市の社会福祉士・精神保健福祉士の溝江広騎(こうき)さん(34)が、青森県初となる「障害平等研修ファシリテーター」の資格を取得し、昨年12月から同市で活動を始めた。資格を持つのは東北地方で4人のみ。研修は障害者自身がファシリテーター(対話の進行役)となり、企業や自治体、学校などを対象に障害者を排除しない組織づくりを一緒に考え、実践につなげる目的がある。溝江さんは「青森でも研修を重ね、多様な人が共生できる社会の実現へ理解を広げたい」と話す。

 「障害とは○○である。この空白に入る言葉は?」。昨年12月中旬、溝江さんは、初めて開催した研修で4人の参加者に問いかけた。さらに、洋品店の前を車椅子で移動する女性の絵を示し、参加者は、障害だと感じる場所に次々と付箋を張って課題を分析したり議論したりしながら地域に点在する障害について考えた。

 また障害者が多数で、健常者が少数という仮想社会を表現した動画を再生。健常者がタクシーや公共バスに乗車拒否をされるなど、次々と差別に遭う場面が映し出された。参加者は「差別される側」の視点で社会を見つめ直した。

 溝江さんは、青森市内の児童発達支援放課後等デイサービスで「管理者兼児童発達支援管理責任者」として働く。普段から障害福祉に関する講演や講義をする機会が多かったが、「聴講者は一時的には感化されるが、印象に残らなかったり、一方通行」という悩みも抱えていた。

 その中で、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会やボランティアに関わる人など約8万人が受講した障害平等研修の存在を知り、問題点や解決策を参加者が考える「発見型学習」に興味を持ったという。溝江さんは勤務と並行し、特定非営利活動法人「障害平等研修フォーラム」が実施するファシリテーター養成講座約80時間を受講して資格を取得した。

 今年4月には「改正障害者差別解消法」が施行され、民間事業者が障害者に配慮を求められた場合、過重な負担がない範囲で社会的障壁を取り除く配慮を行うことが法的義務になる。また、2026年には全国障害者スポーツ大会が青森県で開催されるなど、県民が障害について考える機会が増える可能性がある。

 「障害は個人にあるのではなく、差別や社会環境の中にあるという意識を広めたい。障害者にとって暮らしやすい社会は妊婦、高齢者、子どもにも暮らしやすい社会につながる。青森をそんな地域にできたら」。溝江さんは今後の活動に意欲を語った。

 研修は参加者3人以上で実施可能。当面は青森市内で無償で開催する。問い合わせはメール(kouki6686@gmail.com)で溝江さんへ。

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障害者差別解消法 障害のある人もない人も分け隔てなく暮らせる共生社会の実現を目指し、2016年4月に施行された。行政機関や民間事業者に障害を理由にした不当な差別を禁止。障害者が助けを求めた場合、過重な負担にならない範囲で、意思を伝え合うためにタブレット端末を使ったり、車いすを補助したりする「合理的配慮」が国や地方自治体に義務付けられた。現在は努力義務とされている民間事業者も24年4月に義務化の対象となる。違反に直接的な罰則はないが、国は必要に応じて報告を求め、指導、勧告などもできる。

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