弘前城(青森県)石垣 世紀の大改修、最終盤 伝統の技に最新技術も

約100年ぶりの石垣大改修が最終盤を迎えている弘前城本丸。写真左下は2024年中に作業する石垣南東部分。写真中央は南東部分から曳屋(ひきや)された天守=23年12月6日、東奥日報社ドローンで撮影
クレーンを使って大きな石を積み上げ、位置や角度を調整する石工ら
石垣の断面。表面の築石は赤と青のガイド棒に合わせて角度を調整しながら積み上げる。裏には小さな裏込石がびっしりと詰められている

 弘前城で約100年ぶりに行われている本丸の石垣大改修は最終盤を迎えており、2024年中にほぼ完了する予定だ。巨大な石を積み上げる様子や石垣の断面を間近で見られるのは、この先二度とないかも。世紀の大工事の技術や見どころを紹介する。

 石垣大改修で積み直す石2185個中、残りは約710個。ラストスパートとなる2024年は、天守が上に載る南東の角部分での作業となる。石工(いしく)のまとめ役を務める一山隆昌さんは「弘前城が一番美しく見える所だし、角部分はより高い技術が求められる。きれいに反った石垣を見てもらいたい」と話す。

 石垣の積み直しは、重いもので約6トンもの石をクレーンでつり上げ、石工らが位置や角度などを調整しながら一個一個積んでいく。美しく安定した石垣に仕上げるため、積んでは直しを繰り返して全体のバランスを取る。まさに職人技だ。

 弘前城の創建時から5度にわたって積まれてきた石垣は、時期によって積み方が違う。同じ高さに横一列に並ぶ「布積み」や、斜めの向きに積む「谷落とし積み」などがあり「違いを覚えれば、積まれた時期が一目で分かるようになる」と弘前市弘前城整備活用推進室の関剣太郎総括主査。今年は、作業場所のすぐそばにある下乗橋から様子をのぞけるのもポイントという。

 市は今年、石垣見学ツアーを2回予定している。作業用の足場を歩き、石垣の中段に設けられた生活排水用の穴「蛇口」や石に刻まれた文字など、細部まで間近に見ることができる。

 約100年ぶりに石垣を大改修するのは、本丸石垣の東面に最大1メートルの膨らみが見つかり、地震などで崩落する恐れがあるため。2007年度に基礎調査が始まり、石垣は17、18、21年度に解体。21年度からの積み直し作業は伝統的な日本の築城技術を用いつつ、「100年を超えて、いつまでも美しい石垣を守るため」(弘前市弘前城整備活用推進室長の土岐康之公園緑地課長)、最新の技術と知見で支えている。

 地震対策の切り札が、天守を支える長さ約35メートル、直径1.8~2メートルの鉄筋コンクリート製くい4本だ。くいは直径2.5メートルの筒の中を通り、周囲の土や石垣から浮いた状態。天守の重さ約400トンが石垣にかかるのを防ぐだけでなく、地震の時は天守と石垣が別々に揺れるため、影響を最小限にできるという。23年度から準備を進めている。

 このほか、石垣の一部では中にシート材を入れて、石垣表面の「築石(つきいし)」にかかる圧力を分散させ、石垣の変形を防ぐ。

 石垣の膨らみの主な原因は、地中にたまった雨水が内側から石垣を押したため。今回の改修では、水抜き用の暗渠=あんきょ=(地中の水路)を増やすほか、地表近くに雨水を通しにくい粘土層を造り、雨が地中に染み込む前に側溝へ流す。粘土層での対策は、22年8月豪雨を受けた追加策という。

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