社説:羽田空港事故 ありえぬ惨事はなぜ起きた

 空港内で目を疑うような惨事が起きてしまった。

 羽田空港C滑走路で、札幌発羽田行きの日航旅客機と海上保安庁の航空機が衝突し、いずれも炎上した。

 日航機の乗客乗員379人は全員が脱出し、命に別条はなかった。

 だが、海保機の乗員6人のうち5人が死亡した。能登半島地震の被災地に支援物資を運ぶ途中で、痛ましくてならない。

 航空事故として運輸安全委員会が調査官を派遣し、警察も業務上過失致死傷容疑を視野に捜査を始めた。

 徹底して事故の原因を究明し、繰り返さない対策を講じねばならない。

 離着陸するジェット機は時速200キロを超え、滑走路には1機しか入れないのが管制の原則とされる。ありえない2機の滑走路進入がなぜ重なったかが、原因究明の焦点である。

 国土交通省が公表した管制の交信記録によると、日航機には「着陸支障なし」と伝えて許可した。一方、海保機に誘導路を滑走路手前まで進むよう指示したが、滑走路内への進入を認める交信はなかった。

 だが、機長は重傷を負いつつ脱出後、「許可を得た上で進入した」と説明したとされ、認識と記録が食い違っている。

 海保機側の勘違いや思い込みで進入した可能性が考えられ、予定より遅れた出発への焦りも影響したのではとの見方もある。海保機から回収された、飛行や音声を記録した装置の詳しい解析が手掛かりとなろう。

 当時は日没後で、照明があっても視認性は下がるとはいえ、衝突という最悪の事態は避けられなかったのか。

 通常、滑走路上に障害物があれば、着陸をやり直すなどするが、日航機側は海保機が見えなかったという。高所から見渡せる管制官も対応を指示した記録はなく、把握しないまま別の航空機とやり取りしていた。

 過去にも管制が絡み、指示が正確に伝わらなかったり、勘違いが重なったりして国内外で重大事故が起きている。

 人的なミスを皆無にすることは不可能だろう。例え人の視認や判断に間違いがあっても、滑走路内への同時進入を防ぐ仕組みなど、多重防御の強化をいっそう検討すべきではないか。

 羽田空港は1時間当たりの発着回数が最大90回に上り、年末年始の帰省客らの利用で混雑していた。旅客便に加えて海保など他の利用もあり、安全最優先の観点から世界有数とされる過密状態の見直しも課題だろう。

 衝突直後に炎が出た日航機からは、シューターを使い全搭乗者が約18分間で脱出した。訓練された乗務員の誘導で、さらなる大惨事を免れたといえる。

 より差し迫る爆発などの恐れも念頭に、迅速で的確な避難に向けた教訓を得る検証が欠かせない。

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