「患者に水」「男同士でキス」繰り返される精神科病院での虐待事件 精神医療のあり方とは

精神科病院での虐待をテーマに開かれた集会(大阪市北区・大阪弁護士会館)

 繰り返される精神科病院での虐待事件。2023年2月には、東京都八王子市の滝山病院で看護師による患者への虐待が発覚し、5人が暴行容疑で逮捕される事態に発展した。京都や大阪などの病院で働く看護師や支援者、弁護士らが大阪市で集会を開き、「どこの精神科病院でも起こりうる。氷山の一角だ」と危機感を募らせ、精神医療のあり方を議論した。

 「一歩入っただけで吐き気のするようなにおい。ここは本当に病院なのかと絶句した」。集会では、2020年に神戸市の神出病院で起きた虐待事件で、第三者委員会の一員として調査にあたった林亜衣子弁護士が当時を振り返った。

 事件では、患者にトイレで水をかけたり、男同士でキスさせたりしたとして、看護師ら男6人が準強制わいせつや監禁などの容疑で逮捕された。

 林弁護士によると、病院は高い病床使用率を維持するために、内科疾患を併発していたり、高齢だったりして他院では敬遠されがちな患者を受け入れていた。一方で、看護する職員の人数は減らされ過重労働になっていた上、教育も不十分だった。

 患者への身体拘束は本来、医師の判断が必要だが「簡易拘束なら看護師の判断でやっていい」という考え方がまん延。林弁護士は「患者への暴力が看護師らのストレスのはけ口になっていた」と結論付けた。

 滝山病院の事件が発覚後、入院患者の退院支援に関わってきた相原啓介弁護士も登壇した。滝山病院には人工透析施設があり、神出病院と同様、「『社会から排除された』患者の行き場として一定のニーズがあった」と明かす。今も、100人以上が入院したままという。

 相原弁護士は「東京都からは、事件後から7月末までの間に、患者22人が院内で亡くなったと説明を受けた。現在も虐待は続いているのでは」と懸念を示す。

 虐待の存在が疑われても関与できないのはなぜか。同院は、患者の家族が面会を拒否している、体調が悪いなどと理由を付け、第三者の面会を激しく制限するという。相原弁護士は「カルテの改ざんさえできるほど閉鎖性、密室性が強い。外部の目が非常に届きにくいことが問題だ」と強い口調で語った。

 「発覚していないだけで、虐待のない精神科はおそらくないのではないか」。京都市右京区の訪問看護ステーションで働く看護師有我譲慶さんは、二つの病院に特有の問題ではないと指摘した。

 自身も大阪府内の精神科病院で30年以上勤務し、閉鎖病棟に配置された20代前半、身体拘束をした過去を持つ。「看護行為なのに患者に苦痛を与えることが許されている。病院は治外法権なのか」と違和感を抱き、大阪精神医療人権センター(大阪市)の一員として、安心できる精神医療の実現を目指して活動を続けてきた。

 ただ、欧州の病院に比べて日本は精神科病床が15倍あり、強制入院や身体拘束が「当たり前」であるという状況は改善していないという。有我さんは「地域で支援を受けながら生活できる社会を構築できるよう、今こそ働きかけなければ」と呼び掛けた。

 脳性まひを持ち、障害者の権利実現を目指すDPI日本会議(東京都)の尾上浩二副議長は「国連も日本の精神医療に疑義を示している」とし、国連障害者権利委員会が22年2月に公表した総括所見の内容を説明した。

 国連は日本に▽強制治療を合法化し虐待につながる法規制を廃止すること▽虐待を防止するための独立した監視の仕組みの設置▽精神科病院を含む脱施設―といった内容の勧告を行った。

 尾上副議長は「国は勧告に対し、『法的拘束力を持たない』と発言し、本気度を示そうとしない。精神医療の改革に向けて、国連の勧告を力に変えたい」と決意を込めた。

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