社説:岸田政権 解党的出直しで活路開け

 岸田文雄政権は国民の2割台という青息吐息の低支持率で、正念場の1年を迎えた。

 元日に発生した能登半島地震は、北部を中心に被害の全容がいまだに明らかでない。まずは行方不明者の救助と、避難者の生活支援に総力を結集せねばならない。寒中、被災後に心身の負担が原因で亡くなる「災害関連死」を防ぐ取り組みも注力したい。

 発足から2年超の政権は、待ったなしの難問に直面する。物価高対応と賃上げ奨励を軸とした当面の経済策に加え、急速な人口減と高齢化、金融・財政の正常化、社会保障制度の改革、防衛力整備、AI(人工知能)革命や気候変動への方策といった長期の視点が必要な課題だ。

 世界ではロシアのウクライナ侵略と、パレスチナ自治区ガザでの衝突が長期化している。米国と中国の対立の先鋭化や、北朝鮮の軍事拡大は日本周辺の安全保障環境を揺るがす。

 そんな中で政権が、またぞろ「政治とカネ」で右往左往しているのは嘆かわしい。だが、ここでメスを入れなくては、底なしの政治腐敗と国民不信を招き、民主主義社会も日本再生の道筋も損なわれてしまう。

 検察の強制捜査を受ける自民党の裏金問題は最大派閥の安倍派が中心だが、その根は深い。

 政治資金パーティーを通じて企業・団体から事実上の献金を吸い上げ、派閥や党支部などを経由し「洗浄」した上で、議員が選挙目当てなどで実質自由に使う。そうした自民の集金・集票システムにこそ、本質的な病巣がある。業界との癒着や貸し借りが政府の施策をゆがめ、既得権維持や財政膨張につながっている面は看過できない。

 首相は年頭会見で「総裁として党の体質刷新を進める」と述べ、自民内に来週設ける政治刷新本部で政治資金の透明性拡大や派閥の在り方を議論するとした。ただ、具体策はパーティー収入の原則振り込み化といった案を口にした程度で、腹の据(す)わらなさは相変わらずだった。危機感や自浄能力の欠如を疑う。

 首相は、9月末の任期満了に伴う自民総裁選までに、衆院の解散・総選挙を探るとみられるが、これでは政局の主導権を取り戻せまい。3月に見込まれる予算案成立、4月の衆院補選などの情勢も踏まえ、党内で退陣論が強まる可能性がある。

 派閥不祥事の一掃は、小派閥出身がゆえに配慮を重ねた「内向き政治」から脱却する奇貨ではないか。抜け穴だらけの政治資金規正法を抜本改正し、派閥も含め解党的な出直しに踏み込む。それほどの指導力と覚悟でウミを出し切るべきだ。

 26日開会予定の通常国会では、中身のない「丁寧な説明」を脱し、政治改革はもとより、身の丈に合わない防衛費「倍増」、持続性が疑わしい「異次元」少子化対策などで財源も含めて誠実な議論を重ね、軌道修正もためらうべきではない。

 野党も目先の人気取りに走り、国民の支持をつかめていない。一致点を探り、10年超に及ぶ「1強」で慢心が極まる与党と対峙(たいじ)してもらいたい。

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