大声で「ばかやろう!」で厄落とし 足利・悪口祭りを体験 江戸時代から続く奇祭

「悪口大声コンクール」で猛暑への不満を叫ぶ記者

 【足利】日本三大毘沙門天の一つと言われる大岩町の大岩山毘沙門天(最勝寺)で12月31日深夜、江戸時代から続く奇祭「悪口(あくたい)祭り」が行われた。参加者は1年の厄を落とそうと提灯(ちょうちん)を手に「ばかやろう」などと言いながら、本堂までの約1.7キロを歩いた。普段は慎むべき「悪口」を堂々と言える祭りとはどのようなものなのか。記者が実際に参加してみた。

 祭りは疫病が流行していた江戸末期、架空の動物バクに、この悪夢のような現実を食べてもらおうと「バク様」と祈ったのが始まりとされる。祭りでは「バク様」から転じた「ばかやろう」をはじめ、どんな悪口を言っても良いが、泥棒など「ぼう」の付く言葉は不可という。基本的に誰でも自由に参加できる。

 常連が「例年より暖かい」と口をそろえたこの日は100人超が集まった。

 祭りを前に、午後10時半からは「悪口大声コンクール」が開かれた。声の大きさを騒音測定器で計測し、上位10人には商品が贈られる恒例イベントだ。

 今回は市内外から60人がエントリー。「ばかやろう」のほか「酒飲ませろ」「もっと先輩に気を使え」などの言葉が暗闇に響いた。

 参加した記者も足利に対して「夏暑過ぎるだろ、ばかやろう」と不満をぶつけた。入賞者の記録には及ばなかったが、今夏が快適な気候になれば万々歳だ。

 同11時を回り、いよいよ祭りは本番へ。参加者は先端に「獏(ばく)」と書かれた木札などを手に、ふもとを出発した。沼尻了俊(ぬまじりりょうしゅん)執事(35)の吹くホラ貝に乗せて「コロナなくなれ」「チャリ(自転車)盗むな」「何なんだ、この祭りは」などの悪口が次々と山あいに響く。

 記者も悪口を言おうとしたが、恥ずかしさが勝り口にできない。しかし本堂の灯(あか)りが見えたところで、ようやく勇気を出し「ばかやろう」と言ってみた。すると爽快な気分がくせになり、気づけば本堂まで何度も「ばかやろう」と繰り返していた。

 本堂へは日付が変わる間際に到着。間もなく新年の到来を祝うと、木札を焚(た)き上げて祭りは閉幕した。

 その後、額に注がれた酒を飲み開運を願う「滝流しの式」も行われた。両方に参加した群馬県伊勢崎市、会社員倉林俊勝(くらばやしとしかつ)さん(50)は「『一声入魂』の思いで『ばかやろう』と叫び、交通安全などを祈りながら酒を飲んだ」と話した。

 暗闇で悪口を言う非日常な体験を通じ、記者はすがすがしく新年を迎えることができた。沼尻執事も「一言目さえ言ってしまえば、楽しい時間が待っている。身構えず気楽に来てほしい」と参加を呼びかける。

 少し気が早いが、今後1年間でたまるであろう鬱憤(うっぷん)を、ぜひこの祭りで晴らしてみてはいかがだろうか。

声の大きさを競う「悪口大声コンクール」
「悪口大声コンクール」で猛暑への不満を叫ぶ記者
悪口を言いながら本堂を目指して歩く参加者

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