イシグロさん、そろそろ

 1年は年齢を重ねるにつれて早く感じるようになるらしい。松の内もあっという間に過ぎ、きょうで終わる▲今年は正月早々に大きな地震と事故が起きた。こんなに心が休まらなかった年初は記憶にない。正月休み用に買ったカズオ・イシグロさんの文庫本「クララとお日さま」の読書もはかどらなかった▲小説の主人公クララはとても優しい人工知能(AI)搭載のロボットだ。まだまだ読みかけだが、物語には長崎が舞台の小説「遠い山なみの光」のような不穏さも漂い、先行きが気になる。先に結末を読む禁じ手の誘惑に駆られてしまう▲イシグロさんは5歳で英国へ渡り、故郷の長崎市を後にした。11月には70歳を迎える。望郷の念は強くなっているのではないか▲2017年にノーベル文学賞を受けて以来、故郷へ錦を飾る日を待っている県民も多いだろう。21年の本紙インタビューでは「新型コロナが落ち着いたら、遠からず長崎の皆さんのところにうかがいたい」と語った。ということは、そろそろ▲来年の秋には本県で国民文化祭と全国障害者芸術・文化祭が開かれる。合わせて帰郷し、記念講演でもしてもらえれば全国、いや世界が注目するのは間違いなし。なんて言えば、もう来年の話をするの、と鬼が笑うどころか、あきれてしまうだろうか。(潤)

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