寒さや感染症、車中泊…声掛け合って命を守り抜いて! 29年前に警鐘鳴らした神戸の医師 能登半島地震1週間

避難所で身を寄せる住民ら=6日午後、石川県七尾市(撮影・風斗雅博)

 能登半島地震の被災地では極寒の中、被災者が過酷な避難生活を強いられている。ライフラインが途絶え、物資も十分にない。その光景は1995年1月に発生した阪神・淡路大震災と重なるが、当時の教訓の一つが避難生活中に亡くなる「関連死」だった。能登地震では、せっかく助かった命を守り抜いてほしい。29年前、神戸で関連死の問題をいち早く取り上げた医師に注意点を聞いた。

 阪神・淡路では、最大31万人が避難生活を送った。体育館には多くの被災者が身を寄せ、毛布にくるまって雑魚寝する光景がみられた。地震発生は1月17日。冬の寒さの中、ストレスや過労を抱えたり、持病を悪化させたりする人が続出。インフルエンザも蔓延し、肺炎で亡くなる人も多かった。

 当時、神戸協同病院(神戸市長田区)の上田耕蔵院長は、こうした生活環境の悪化が招く死に気づき、「震災関連死」として警鐘を鳴らす。最終的に921人に認定された関連死は、阪神・淡路の教訓として発信された。

 だが、その後も関連死はなくなっていない。新潟県中越地震(2004年)では、車中泊した避難者がエコノミー症候群で亡くなるケースが相次いだ。同症候群は、長時間同じ姿勢であることで血栓ができ、最悪死に至る。

 東日本大震災(11年)では、東京電力福島第1原発事故で故郷を追われた被災者らの関連死が3千人を超えた。また最大震度7を2回も観測した熊本地震(16年)では関連死が200人を超え、直接死を大きく上回った。

 上田院長は能登半島地震について「道路の寸断で支援が届かず、ライフラインの復旧が遅れている。余震も続いており、避難所のほか、病院や福祉施設でも関連死が増える恐れがある」と指摘する。

 さらに懸念されるのが、北陸の厳しい寒さだ。「換気が難しくなるため、インフルエンザや新型コロナウイルスの感染が増える恐れがある。状況に応じてマスクを着用するなど注意してほしい」

 また、気温が低いため、エンジンをかけたままでの車中泊も多いとみられる。こまめな水分補給や軽い体操で体をほぐしてエコノミークラス症候群を防ぐことに加え、一酸化炭素中毒への対策も必要という。雪が降っている場合は、車の排気口(マフラー)が雪で埋まらないように注意が求められる。

 上田院長は「体調が悪くても言い出しにくい人は多い。周囲の人の変化を見逃さず、避難者同士声を掛け合って乗り切ってほしい」と願う。(高田康夫、竜門和諒)

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