社説:世界と日本 「正義」問われる国際社会

 「世界最大級の環境ビジネス見本市」―。昨年末にアラブ首長国連邦(UAE)であった気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)を環境NGOはこう表現した。

 再生可能エネルギー開発で、各国の企業が商談を展開した。UAEの政府系企業とスペインの電力会社による洋上風力発電開発の投資額は2兆円超。産油国による再エネシフトは、脱炭素が後戻りしない潮流だと物語る。

 COP28で焦点になったのは、環境NGOやグローバルサウス(新興・途上国)などが掲げる「気候正義」だ。

 気候変動は食料や水の供給の不安定化や災害リスクを高める。被害を被るのは、化石燃料の使用量が少ない地域の人々に偏っている、という指摘である。

 パリ協定(2015年)はすべての国に応分の取り組みを求め、COP28では「化石燃料からの脱却」で合意した。先進国は大幅な二酸化炭素(CO2)の排出削減を急がねばならない。

 ところが、日本はアンモニアを石炭と混ぜて火力発電に使う方法やCO2の貯留など、「抜け道」探しに躍起になっている。そんな姿勢こそ「気候正義」に反すると見る向きが少なくない。実質的な排出削減に転換してこそ世界をリードできよう。

 最大の「不正義」であり、環境破壊でもある戦争は、ロシアのウクライナ侵略に続き、パレスチナ自治区ガザで軍事衝突が起き、犠牲者が増えている。

 ガザ住民の死者は2万人を超えた。米国はイスラエルへの軍事支援を続けるが、国連は停戦決議の取りまとめも難航、機能不全があらわになっている。

 ガザの武装組織ハマスのテロ攻撃は、サウジアラビアなどアラブ諸国がイスラエルと経済的結びつきを深める中で起きた。

 30年前に2国家共存をうたった「オスロ合意」に反してイスラエルがガザを封鎖し、それを国際社会が放置していたことがハマスによる襲撃を招いた面は否めない。

 不正義に目をつむってビジネスを優先すれば、深刻な歪みを生む現実を国際社会は改めて突きつけられたといえる。秩序回復に向け、自由や人権、民主主義といった価値の共有が改めて問われる。

 今年は台湾総統選や米大統領選、ロシア大統領選のほか、英国や韓国などで総選挙がある。いずれも大きな節目になることは間違いない。重要なのは、日本が主体的な外交を展開できるかどうかだ。

 日韓関係は昨年、改善へ大きく動いた。今後もシャトル外交などを通じて深化させる必要がある。

 日中関係は難しい局面が続く。安保や経済面で米国の対中包囲に歩調を合わせるだけでなく、日本独自の対話のチャンネルを狭めてはなるまい。米国は閣僚を相次ぎ訪中させ、衝突リスクの低減も図っている。

 近年、SNSなどの偽情報が各国の選挙に深刻な影響を与えている。複眼的に事実を読み取り、見極めることがこれまで以上に重要になる。

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