「やっぱりクラウンはセダンだよね」の期待を裏切ることはない優秀さ/トヨタ・クラウン・セダン試乗

 モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太が『トヨタ・クラウン・セダン』に試乗する。セダンには、水素をエネルギーに走る電気自動車、FCEVが設定されている。これは、「クルマの未来を変えていこう」をスローガンに掲げるトヨタの最新事例といえるだろう。時代の先陣を走るクラウン・セダンの実力を深掘りする。

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 トヨタは2023年11月に新型クラウン・セダンを発売した。クラウンはセダンと同時期にスポーツを発売しており、2022年に発売したクロスオーバーと合わせ3タイプがそろったことになる。2023年度中にはエステートの発売が控えている。

 クラウンはボディタイプごとにキャラクターに合ったパワートレインを設定している。クロスオーバーは2.5リッターハイブリッド車と2.4リッターターボハイブリッド車の2種類を設定。スペックは異なるが、どちらもリヤにモーターを搭載する電気式4WDだ。スポーツは2.5リッターハイブリッド車(電気式4WD)とプラグインハイブリッド車(PHEV)を設定する。

 一方、セダンは燃料電池車(FCEV)と2.5リッターハイブリッド車の設定だ。パワートレインのレイアウトはクロスオーバーやスポーツが横置きなのに対し、セダンは縦置きである。FCEV、2.5リッターハイブリッド車とも後輪駆動(FR)だ。

トヨタ・クラウン・セダン『Z』(第2世代FCシステム搭載)。ボディカラーはプレシャスメタル。車両価格は830万円(税込)。
ボディサイズは全長5030mm、全幅1890mm、全高1475mm、ホイールベース3000mm。先代よりひと回り大きくなったことで、快適な余裕のパッケージを実現している。
トヨタ・クラウン・セダンFCEV
トヨタ・クラウン・セダン『Z』(2.5リッター マルチステージハイブリッドシステム搭載)。ボディカラーはプレシャスメタル。車両価格は730万円(税込)。
エクステリアは水平に伸びたベルトラインで堂々とした装い。リヤには、ワイド感を強調した横一文字のテールランプを採用。
新開発の2.5リッターマルチステージハイブリッドシステムをトヨタとして初搭載。最高出力136kW(185ps)/6000rpm、最大トルク225Nm(22.9kgm)/4200〜5000rpmを発生する。

「『クラウンはセダンだよね』と、当時の社長に言っていただいて」と、チーフエンジニアを務める清水竜太郎氏は説明する。当時の社長とは、豊田章男氏のことだ。現在はトヨタ自動車の会長で、オートスポーツweb読者にはモリゾウの呼び名のほうが、なじみがあるかもしれない。

「セダンにふさわしいクルマのベースは何かと考えていくと、FCEVのミライが持っている静粛性や振動のなさ、モーターによるスムースな走りが思い浮かびました。それって歴代クラウンが追い求めているもの、クラウンらしさにあてはまるよね、と」

 FCEVは水素を燃料に走る電気自動車だ。3本の高圧水素タンクに貯蔵する水素を燃料電池ユニットで大気中の酸素と化学反応させて発電。つくり出した電気でモーター(最高出力134kW、最大トルク300Nm)を駆動して走る。16代目にして初めて、100%電気で動くクラウンが誕生したことになる。バッテリーではなく、水素で発電するFCEVを選択したのは、ショーファーカーとしての需要を見込んだ意志あっての決断だ。

 2023年5月末に開催されたスーパー耐久シリーズの一戦、『富士24時間』が開催された富士スピードウェイのイベント広場には、カーボンニュートラルをテーマにした車両や技術が数多く展示されていた。そのなかに、左ハンドル仕様のクラウン・セダンがあった(世界初展示だった)。そのクラウン・セダンを前に中嶋裕樹・副社長・CTOは思いを語った。

「クラウンのFCEVを公用車として使っていただきたい。そしてぜひ、市役所に水素ステーションを作っていただきたい。街なかに必ずある市役所に水素ステーションができれば、公用車だけでなく、みなさんの生活を支えるFCEVの利便性も高まります。市役所で水素の充填ができますから」

 トヨタは「クルマの未来を変えていこう」というスローガンを掲げているが、クラウン・セダンのFCEV仕様はその最新事例だ。ショーファーカーとしての用途を見込んでいるので、ホイールベースはミライに対して80mm延長した(2920mm→3000mm)。後席の足元スペースを広げるためで、乗り込んでみれば確かに、足元スペースには余裕がある。

 しばらく後席で過ごしてみたが、束の間のエグゼクティブ気分を味わうことができた。体をほぐしてくれるリラクゼーション機能(リヤアームレストにタッチパネルを内蔵)は便利で、タッチパネルでエアコンやベンチレーション、オーディオなどの操作が行える。

後席はリラクゼーション機能、日差しを遮る電動サンシェードなど“おもてなし”装備を多数設置。
ホイールベースを3mに設定したことで、後席のゆとりを創出。足元スペースも広くなり、足抜きしやすいスムーズな乗り降りを実現する。
トヨタ・クラウン・セダンFCEV
トヨタ・クラウン・セダンFCEV
トヨタ・クラウン・セダンFCEV

 クラウン・セダンはドライバーズカーとしても優秀で、実際にステアリングを握った印象は、「これぞクラウン」だった。筆者は「いつかはクラウン」のキャッチフレーズで売られていた7代目クラウン(1983年)を実体験している口で、静かでスムーズで、クッションのいい乗り味が印象に残っている。

 新型のクラウン・セダンFCEV仕様はその走り味・乗り味を想起させた。とことん静かで、とことんスムーズだ。しかも、期待を上回る力強さで巡航スピードに達する。クッションもいいが、昭和のクラウンと異なるのは、キビキビと動くことだ。上下方向はフワッとしているが(ただし、収まりはいい)、左右方向(ロール側)の動きはビシッとしている。令和のクラウンは、相反する要素である乗り心地と走りがうまくバランスされている印象だ。

トヨタ・クラウン・セダンFCEV
トヨタ・クラウン・セダンFCEV

 2.5リッターハイブリッド車も好印象だった。15代目にあたる先代クラウンにも2.5リッターハイブリッド車の設定があった。A25A-FXS型の2.5リッター直列4気筒自然吸気エンジンは16代目のセダンもそのまま受け継ぐが、ハイブリッドパワートレインは異なる。

 先代はTHSと呼んでいたシリーズパラレルハイブリッド機構を組み合わせていたが、新型クラウン・セダンはマルチステージハイブリッドの組み合わせだ。

 マルチステージがTHSと異なるのは、プラネタリーギヤを使った4段変速機構を出力軸側に追加した構成になっていることだ。新型クラウン・セダンは先代より270kg重くなっている(2.5ハイブリッドG比)ため、THSのままでは余裕駆動力が不足することが判明した。

 だからといって安易に排気量を増やすことはせず、マルチステージハイブリッドを組み合わせて駆動力を確保することにした。レクサスLSには3.5リッターV6自然吸気エンジンにマルチステージハイブリッドを組み合わせた仕様があり、それをスライドさせれば手っ取り早いのだが、ダウンサイジングの時代に今さら3.5リッターでもなかろうとの判断が働き、2.5リッターで勝負することにしたのである。

 マルチステージハイブリッドのおかげで、「先代クラウンより駆動力、加速力がしっかり出せるクルマができました。それが今回のポイント」と、開発を担当した技術者は語る。燃費のためのマルチステージハイブリッドではなく、走りのための選択である(だからといって、燃費を無視しているわけではない)。

トヨタ・クラウン・セダンHEV
トヨタ・クラウン・セダンHEV
写真はオプションの245/45ZR20タイヤ&アルミホイール(ブラックスパッタリング塗装)。標準は235/55R19タイヤ&アルミホールとなる。

 100%モーターで走るFCEV仕様に対し、2.5リッターハイブリッド車はシステムの構成上、エンジンを始動させずにはおかない。しかし、エンジンの音や変速ショックが目立っては、クラウンらしい、静かでスムーズな走りを邪魔してしまう。だから、制御や遮音・吸音技術でエンジンを含むパワートレインの存在が目立たないようにした。

 熱意ある技術者たちが腐心して開発に取り組んだ甲斐はあり、2.5リッターハイブリッド車は静かでスムーズで、運転していて気持ちのいいクルマに仕上がっている。FCEVを選択しても、2.5リッターハイブリッド車を選択しても、「やっぱりクラウンはセダンだよね」の期待を裏切ることはないだろう。

内装は大型の杢目調パネルを採用するなど、フラッグシップに相応しい作り。リヤドアトリム左右には全64色に色替え対応可能なLED照明を配置する。
インテリアはブラックとミッドブラウン(写真)の2色を用意する。
トヨタ・クラウン・セダンFCEV

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