フルートやサックスはほとんどが金属製の楽器ですが、「金管楽器」ではなく「木管楽器」に分類されます。見た目で楽器を分類することは、知らないとなかなかできません。なぜこのような名称になったのでしょうか。楽器の分類の仕方や、それぞれの楽器の性質について見ていきましょう。
楽器の分類方法はたくさんある
動物を分類しようと思ったら、まず思いつくのは脊椎動物の中に哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・魚類がいて、節足動物のなかに、昆虫や甲殻類がいて、というような進化分類学的なものをはじめに思い浮かべる人が多いかと思いますが、アジア・ヨーロッパ・アフリカなど地域で分類したり、陸・海・河などの生息域で分類したりすることもできます。
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楽器も同じで、文化・地域によって分類したり、発音方法で分類したり、演奏方法で分類したりすることができます。
たとえば、リコーダーとフルートと尺八を分類することを考えてみましょう。
地域で分類 ヨーロッパ:リコーダー・フルート アジア:尺八
演奏方法で分類 口元で息の渦を作る:フルート・尺八 楽器内で空気の渦を作る:リコーダー
構え方で分類 縦に構える:リコーダー・尺八 横に構える:フルート
となり、どのように分類することもできてしまいました。
「木管楽器」「金管楽器」といった分類は、「演奏方法」による分類で、素材による分類ではありません。今回はこの「演奏方法」による分類について詳しく解説します。
大きく5つに分類
「演奏方法」による分類は大きく5つに分けることができます。 ・金管楽器 ・木管楽器 ・弦楽器 ・打楽器 ・鍵盤楽器
です。口に金属の振動を伝えて発音する「口琴」や、空中で手を動かして演奏する電子楽器「テルミン」など、これに当てはまらない楽器も多数ありますが、よく見るのはこの5つだと考えて良いでしょう。
金管楽器
金管楽器はトランペット・ホルン・トロンボーンといった楽器です。一本の長い管の片方に口をあてて唇を振動させ、もう片方はベルといって広がった形をしています。
楽器の見た目だけを見ると、ベルからものすごい風が出て音が鳴っているような印象を受けますが、実際には唇の振動が楽器全体に伝わって、音を大きくしているのが発音原理です。
楽器の素材によって、音量や音色は変わりますが、吹奏技術はほとんど変わらないため、水道ホースの片側にマウスピースという口元の道具を取りつけ、反対側にロウトを取りつければ簡易的な金管楽器が作れてしまいます。
口元で「倍音列」という特定の音の並びに従って音の高さを変えられるほか、管の長さを変えることによっても音の高さを変えられます。トロンボーンの演奏をみると、見た目からして管の長さを変えていますが、トランペットのピストンも管の長さを変えるのが役割です。
金管楽器は突出して大きな音が出るため、古今東西軍楽によく使われています。ラッパの音を聞くと、それだけで軍隊を想像してしまいますね。
木管楽器
木管楽器は、フルート・クラリネット・オーボエ・サックスといった楽器です。一本の管に指孔がたくさん開けられ、管の片方の端にリードと呼ばれる発音部分をとりつけます。
フルートはエアリードといって口元で空気の渦を作って発音するため、木管楽器の中でも雑味の少ない音が鳴ります。クラリネット・オーボエ・サックスは、植物性の板を震わせることによって発音し、複雑で豊かな音が鳴ります。
音の高さは基本的には管に開いた指孔をふさぐことで変えますが、口元で「倍音列」に従って音の高さを変えることが可能です。
また、リコーダーのように、音の高さをオクターブ変えることができる指孔が開いていることもあります。
指孔のおかげで細かい動きが得意で、音域も広く、音楽に輝きを与える役割を担うことが多いです。
弦楽器
弦楽器は、ヴァイオリン、チェロ、コントラバス、ギター、ハープといった楽器です。楽器の両端に渡るように弦が数本(またはたくさん)張られていて、楽器に弦の振動を伝えて大きな音を鳴らします。
大抵の場合、楽器の中が空洞になっていて、そこで音が増幅されます。
弦を鳴らす方法には大きく二つあります。「はじく」「こする」です。 ギターやハープははじいて音を出すので「撥弦楽器(はつげんがっき)」、ヴァイオリンやチェロは弓でこすって音を出すので「擦弦楽器(さつげんがっき)」と呼びます。
弓を使う場合は、摩擦力を高めるために松脂(まつやに)を塗ります。こうすることで、持続的に大きな音を出すことができるようになります。
弓を使うと、指ではじくよりも各段に大きな音が鳴るようになり、ヴァイオリン一台でもオーケストラに埋もれないほど大きな音を奏でることが可能です。
何億円というヴァイオリンがたびたび話題になることがありますが、そこまでいかなくてもヴァイオリンは非常に高価です。楽器の傾向として「小さいほど値段が高い」というものがありますが、チェロでもなかなか高価です。
逆にギターは、ピアノと並んで世界中でメジャーな楽器となり、若者でも手に入れやすい安価なものもたくさん売られています。
打楽器
打楽器は、ドラム・ティンパニ・マリンバ・ヴィブラフォンといった楽器です。金属だったり木材だったり皮の膜だったりを、手やばちなどで叩いて音を出します。 また、マラカスのように振って音を出すものも打楽器に含まれます。
太鼓の音程を聞き取ることは難しいですが、ドラムのタムや、ティンパニなど、はっきりと音程を聞き取ることができる楽器もあります。また、マリンバやヴィブラフォンはピアノの鍵盤と同じ配置になっており、旋律も伴奏も演奏することができます。
ヴィブラフォン専門・ドラム専門というミュージシャンもいますが、打楽器奏者の多くは、たくさんの楽器を操ることができます。
リズム感がとにかく良く、また効率的に音が鳴るためにはどのように力を伝えれば良いかということを経験的に知っているため、楽器がなくとも木片と棒さえあれば音楽を作れたり、手拍子だけでグルーヴ感を出すことができたりする人もいます。
打楽器は金管楽器を超えるほどの音量を出すことができるものもあります。数キロ先でもお祭りの和太鼓の音はよく聞こえますね。
世界中の文化の宗教的な儀式のなかでも打楽器はよく使われています。音楽にとってリズムはもっとも大切で、人の興奮を高めることができ、リズムだけで魂が奪われるような経験をしたことがある人もいるのではないでしょうか。
鍵盤楽器
鍵盤楽器はピアノ・オルガン・チェンバロといった楽器です。横一列にずらっと鍵盤が並び、鍵盤ひとつひとつに、弦楽器や管楽器が対応しているようなイメージです。
ピアノはハンマーで弦を叩き、オルガンは管に風を送り込み、チェンバロは爪で弦を弾いて音を鳴らします。
ただ鍵盤を押すだけで音が鳴る、という簡単さは、他の楽器に無いものです。たくさんの楽器を内蔵しているようなものなので、楽器自体が巨大なことが多いですが、それでも始めやすいため、ポピュラーな楽器となっています。
⇒ベートーヴェンが「自由」を求め、表現した「交響曲第九番」
鍵盤楽器は、簡単に色々な高さの音を同時に出すことができる、という性質を持ちますが、パソコンのキーボードのように「ボタン操作」でしかないので、鍵盤楽器の歴史的には、音量を調整するということがなかなかできずにいました。
オルガンは、管の組み合わせを変えたり、オルガン全体の蓋の開け閉めを足元のペダルで調節したりすることによって音量に変化を持たせてきました、
そんな中で、鍵盤にかかった強さをそのままハンマーに伝えることで音量調整が容易にできるようになったピアノが登場しました。(ピアノは、「弱音から強音まで演奏できる鍵盤楽器」という意味です)
一人で伴奏と旋律を同時に演奏できるため、ソロ活動が最もしやすいのが鍵盤楽器です。
楽器の分類を知るとオーケストラが楽しくなる
上記のような分類で楽器の一般的な傾向を知ることができます。楽器のキャラクターや役割を知るとビッグバンドやウインドブラス、オーケストラのような大編成音楽もそれぞれの楽器が聞こえるようになり、より解像度が高く音楽を楽しめるようになります。
ぜひいろんな楽器を聞いて、または演奏して、自分のお気に入りの楽器を見つけてみてください。(作曲家、即興演奏家・榎政則)
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榎政則(えのき・まさのり) 作曲家、即興演奏家。麻布高校を卒業後、東京藝大作曲科を経てフランスに留学。パリ国立高等音楽院音楽書法科修士課程を卒業後、鍵盤即興科修士課程を首席で卒業。2016年よりパリの主要文化施設であるシネマテーク・フランセーズなどで無声映画の伴奏員を務める。現在は日本でフォニム・ミュージックのピアノ講座の講師を務めるほか、作曲家・即興演奏家として幅広く活動。