5点の衣類「検察はねつ造ではないと立証しなければいけない」3月の証人尋問がヤマ場 「袴田事件」年内決着へ【現場から、】

1966年、静岡県の旧清水市(現静岡市清水区)で一家4人が殺害されたいわゆる「袴田事件」で死刑が確定した袴田巖さん(87)の再審=やり直し裁判は、年内の決着が予想されます。2024年3月から始まる見込みの検察、弁護双方が立てる証人の尋問が審理の最大のヤマ場となりそうです。

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袴田ひで子さん(90)と弟の巖さん(87)。浜松市の自宅で静かな正月を迎えました。

<ひで子さん>
「記者さん」

<巖さん>
「あ、そう、もう終わったんだ。もう終わったんだ」

巖さんが「終わった」と語るのは半世紀以上前の事件のことでしょうか。

袴田さんは1966年、旧清水市でみそ製造会社の専務一家4人が殺害された事件の犯人とされ、1980年に死刑が確定しました。

2023年3月、東京高裁が再審=裁判のやり直しを認めました。死刑事件で再審が始まるのは、袴田さんで5例目。過去4件は無罪判決が言い渡されていて、袴田さんの無罪の公算も大きくなっています。

2023年10月に始まったやり直し裁判の初公判では、長年の拘留によって精神的に不安定な状態が続く袴田さんに代わって姉のひで子さんが法廷に立ち、こう訴えました。

「どうぞ弟、巖に真の自由をお与えくださいますよう、お願い申し上げます」

一方、検察は犯人は袴田さん以外にいないとして改めて有罪の立証を進めています。2024年3月からは検察、弁護の双方が立てる証人への尋問が始まる予定です。

最大の争点は事件発生から1年2か月後に現場のみそタンクから発見された血染めの「5点の衣類」です。袴田さんを有罪としてきた最大の証拠ですが、再審を認めた東京高裁の決定では「みそに長期間、浸っていたにしては血痕が赤すぎる」として、捜査機関によるねつ造の可能性にまで言及しています。

東京高等裁判所で裁判長まで務めた木谷明さんに聞きました。

<元東京高等裁判所裁判長 木谷明弁護士>
「検察官としてはそこ(5点の衣類)しかないわけですから、旧証拠をいくら取り調べても、これまで以上のものは出てこないわけですから、再審の審理の過程で出ていなかった新しい証拠を、検事が出さない限りは(検察側が)負けますよね」

検察は法医学者7人による鑑定書などから、1年2か月以上みそにつけても、赤みが残る可能性があると主張、証人尋問ではそのうちの法医学者1人が法廷に立つ予定です。

<元東京高等裁判所裁判長 木谷明弁護士>
「この立証責任の問題は重要で、ねつ造ではないという立証をしなければいけないですから、いくら赤みのことを可能性論で論じてもこれは勝てません」

一方、弁護団は1年以上みそにつければ「血痕は黒くなる」と主張し、去年3月に再審開始を認めた東京高裁の審理でも鑑定に携わった法医学者らの証人を準備しています。

<袴田事件弁護団 小川秀世事務局長>
「そういった意味では一番の重要な論点で、ヤマ場になると思っています」

<姉・ひで子さん>
「(今年は)57年間の総決算。無罪になって死刑囚じゃなくなる。とてもじゃないけど、死刑囚のままでは困るわけだから、死刑囚じゃなくなるってことが大事です」

無罪の公算が大きいと言われる袴田巖さんのやり直し裁判はこのあと、1月16日に2024年初めての公判が予定されていて、1月に2回(16,17日)、2月に2回(14、15日)、3月に3回(25,26,27日)の計7日の期日が指定されています。また、注目として挙げていた双方の証人尋問は3月の3日間で実施される予定です。

弁護団によりますと順調にいけば、5月22日までに審理を終え、判決は早ければ夏の終わりごろにも言い渡される見通しです。

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