能登牛1000頭、餌足りぬ 能登町の牧場 道路損傷、運搬できず

牛の体調を確認する平林さん=11日午後2時、能登町泉の能登牧場

 石川県産ブランド牛「能登牛(うし)」の一大産地である能登町の能登牧場では、能登半島地震の影響で餌の供給がおぼつかない状態が続いている。県内最多の千頭を飼育しているが、停電で給水器が使えず、弱っていた1頭が死んだ。スタッフは「当面は離れられない」と地震直後から世話に付きっきり。ただ、牧場につながる道路の損傷でトラックの通行が制限され、今後、餌が足りなくなる恐れもあるという。(経済部・若村俊)

 山手にある能登町泉の能登牧場までの道路は、3本のうち2本が崩落や陥没で使えず、残る1本も損傷して4トントラックがギリギリ通行できる程度となっていた。

 能登牧場の管理者である平林将専務(40)に現状を聞くと「人命第一なので牛の優先順位が低いのは仕方ない面もある」と歯がゆい思いを募らせる。今後、道路の早急な復旧を働き掛けるというが、「餌の牧草や配合飼料が年末に届いた分しかない。1、2週間後には底を突きそうで、真綿で首を締められているよう」と窮状を訴えた。

 地震発生後、夜通しうめき声を上げていた牛たちに対し、平林さんは元日以降、穴水町の自宅に帰らず、世話を続けた。7人のスタッフも牧場内で車中泊をしたり、避難先から駆け付けたりして健康状態に神経をとがらせているという。

 徐々に生活インフラが復旧、牛が落ち着きを取り戻すと、10日には予定通り今年初めて東京市場に12頭を出荷した。

 ただ、餌不足は深刻だ。本来なら1週間に50トンの餌が必要となるが、今は10トン程度の輸送が精いっぱい。金沢市場での初競りは22日に延期されているものの、平林さんらはそれまで餌が持つか、必要な頭数の牛を出荷できるかと気をもむ。

 度重なる揺れによって牛舎の傷みは深刻で、敷地には約100メートルにわたって亀裂が入り、最も新しい棟でも建物が傾いた。シャッターも崩落したり、ゆがんだりした。今後、安全な新棟の整備も視野に被害箇所の確認を急ぐという。

 能登牧場は畜産大手の赤城畜産(前橋市)が2014年に開所。当初の飼育頭数は約300頭だったが、2年ペースで牛舎を1棟ずつ増設し、生産規模は3倍以上に拡大した。年間出荷頭数は約500頭で、石川県によると、県内の農家全体で22年度に1357頭を出荷しているというから、能登牧場の牛が約4割を占める計算だ。

 ブランドの知名度が徐々に上がってきた中での危機的状況に平林さんは「生き物を飼うということはその場から離れられないということ。しばらくは帰りません」と牛を優しくなでた。

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