「ステージ4」のがんサバイバー わらにもすがる思いで取り入れた「自然農」

自然農法でニンニクを栽培する西川さん(南丹市日吉町)

 「ステージ4」の乳がんとともに生き、教師業の傍ら、週末には自宅近くの畑に向き合う西川勝美さん(58)=京都府南丹市日吉町上胡麻。農薬と化学肥料を使わない「自然農」。ライ麦やキクイモ、サツマイモなどを栽培する。

 「土にまく菌の働きで、畑の土がふかふかでしょ?」。手間がかかると思われがちだが、わらや草で土壌を整えれば、後は種をまくだけの不耕起栽培。「何もしなくても作物が育ってくれる。手抜きの農業なんです」と笑う。

 取り組むきっかけは、大病だった。2019年、体に不調を感じ、検査でがんがわかった。骨にも転移が進み、手術もできない状態で「子どももまだ小さいので目の前が灰色になった」。北桑田高(京都市右京区)で数学を教えていたが、すぐに休職。医者の「思い残すことがないように」との言葉に、残された時間が長くないことを悟った。

 真っ先に頭に浮かんだのは幼い娘のこと。生まれつきのアトピーで夜も眠れないぐらい苦しむ姿に接してきた。「彼女のために全力を尽くそう」と決意を固めた。さまざまな病院や医者を頼ったが、効果がない。20年に福知山市内の医師から「だめかもしれないけど、食事を農薬を使わないものに替えてみては」と勧められた。

 わらにもすがる思いで自然農の米や野菜を取り入れると、半年ほどで娘の症状が和らいだという。やがて「自分の体も楽になった」と職場にも復帰した。

 21年から専門家に教えを請い、休耕地を購入して小規模ながら自ら自然農に取り組む。日々の闘病体験も織り交ぜたブログでの発信も始めた。文章を書くことが得意で、18年には文芸誌のエッセーで最優秀賞を獲得したこともある。

 娘は小学2年になった。「あとは娘に農法を教えて、仮に私がいなくなっても自分で生きていけるようにしてあげたい」。がんサバイバーが歩みを進める。

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