大分元町石仏の劣化防止へ和紙貼り付け 大分市教委、原因物質を吸着【大分県】

塩類を吸い取るための和紙を貼り付けた大分元町石仏=昨年10月、大分市元町
石仏のそばに機器などを設置する研究者=昨年11月、大分市元町

 【大分】大分市元町の磨崖仏「大分元町石仏」(国指定史跡)の劣化を防ごうと、市教委がユニークな対策に取り組んでいる。石仏本体に和紙を貼り付けて原因物質を吸い取る独自の手法で、国内外の研究者が注目している。昨年11月、より効果的な保存処理を探る実地試験が始まった。

 市教委文化財課によると、劣化の主な原因は、石仏が吸い上げた地下水に含まれる塩類(硫酸ナトリウム)。塩類は体表で結晶化。その衝撃が積み重なり、石仏が崩れていく。

 地下水は過去の対策工事で遮断したが、石仏内部に塩類がたまっている。同課は2014年度、和紙による処理を本格的に始めた。

 和紙の効果が分かったのは「偶然」という。もともとは傷んだ箇所を補強する目的で貼り付けたが、表面に結晶ができているのを発見。同課に協力する奈良文化財研究所の研究者らが調査し、「脱塩」効果を確認した。

 同課の手法に海外からも関心が寄せられている。13年はバングラデシュ、昨年はドイツの研究者が石仏を訪れ、和紙を含めた対策事業を学んだ。

 同課は和紙の活用を当面続ける予定。一方、処理を施す間隔は検討中だ。保存継承の機運を高めるため、「何も貼っていない本来の姿を見てもらうことも大切」。頻繁な張り替えは石仏を傷める危険もある。

 近年は年1回、2カ月ほど貼り付けてきたが、21~22年は休止。昨年10~12月、3年ぶりに実施した。今後、結晶の付着量などを調べ、適切な間隔を考える。

 同課の河野史郎参事補(57)は「塩類対策は今後の保存整備の第一歩。より良い方法を探りたい」。

 同11月には、奈良文化財研究所埋蔵文化財センター保存修復科学研究室の脇谷草一郎室長(47)や京都大工学研究科の高取伸光助教(31)らが大分元町石仏を訪問。同じ凝灰岩で作った直方体(縦・横20センチ、高さ40センチ)をそばに設置した。年単位で水分量や温度などのデータを計測し、より効率的に脱塩できる手法の開発に役立てる。

 脇谷室長は「各国の遺跡などが塩類の被害を受けている。研究の意義は大きい」。高取助教は「これほど丁寧な調査・実験ができる場は少ない。『守りたい』という地元の意志を感じている」と話した。

<メモ>

 大分元町石仏は、大分市の市街地にほど近い上野台地東側に位置。平安後期の作とされる。中央の薬師如来坐像(ざぞう)(台座含む高さ3.84メートル)は定朝様式の流れをくみ、切れ長の目や優しい顔立ちが特徴。古くから両腕を欠損し、腹部などが大きくはがれ落ちている。近年は肩や膝の劣化が目立つ。市教委は1971年以降、継続的に保存整備を実施。86~95年は排水ボーリングやトンネルなどを設け、地下水を遮断した。

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