〈1.1大震災~連載ルポ〉再び被災「来年はいい酒を」 珠洲・蛸島の造り酒屋大打撃

地震で倒壊した櫻田酒造の店舗=5日、珠洲市蛸島町

 珠洲支局勤務から離れて2年半、珠洲市内の風景は記憶と大きく変わってしまった。黒瓦の美しい町並みが印象的だった蛸島町の様子が気になって足を運ぶと、多くの家屋とともに造り酒屋の建物が倒れ、がれきが散乱していた。昨年5月の地震で壊れた酒蔵を直し、酒造りを始めようとしていた直前の地震。今季の酒造りは絶望的になったというが、「来年はいい酒を届けたい」という関係者の言葉が胸に響いた。

 蛸島の街を歩くと、1階部分が崩れた建物の前に造り酒屋の軒先に掲げられる杉玉が転がっていた。崩れていたのは1915(大正4)年創業の櫻田酒造の店舗や倉庫。取締役の櫻田朋子さん(51)は「直しても、また地震が起きるかもしれない」と不安を口にした。

 倉庫が崩れて原料の酒米が使えず、今季の酒造りはできなくなった。約2千本の在庫もすべて売り物にならなくなった。

 近所の自営業多原健次さん(60)は、櫻田酒造の酒は晩酌だけではなく、地元の祭りにも欠かせないとし、「なくなるなんて考えられん」と話した。

  ●瓶軒並み割れる

 珠洲市宝立町宗玄の宗玄酒造でも、出荷用の瓶が軒並み割れて、のと鉄道のトンネル跡を利用した「隧道(ずいぞう)蔵」の出入り口は土砂崩れでふさがれた。社長の八木隆夫さん(60)は「今季の酒造りは断念せざるを得ない」と話した。ただ、珠洲の酒の復活を自分も含めたくさんの人が待っている。

(白山支社・古府拓也)

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