波乱は起きなかった…/原ゆみこのマドリッド

[写真:©︎RFEF]

「何だか余裕のある週末ね」そんな風にいささか、私が拍子抜けしていたのは土曜日、巷ではリーガ後半戦開始となる20節が続々と進行している中、スタジアム観戦できるマドリッド勢の試合は1つもなく、今週末は日曜夜のスペイン・スーパーカップ決勝をバル(スペインの喫茶店兼バー)で見るだけでいいことに気がついた時のことでした。いやあ、それが誰かさんの思惑通り、今季2度目のクラシコ(伝統の一戦)となって、レアル・マドリーとバルサのタイトルを懸けたビッグマッチというのはまさに、その通りなんですけどね。

要はその大会の準決勝でお隣さんに負けたアトレティコもラージョとの兄弟分ダービーが、ヘタフェがマドリーを迎え撃つ、もう1つのダービーと共に1月末まで延期となっているからですが、おやおや。ちょっと今週末開催の20節のカードを見てみると、日曜に最下位のアルメリアのホームに乗り込むジローナが勝つか、引分ければ、ミチェル監督のチームは再び単独首位を満喫できることに。もっと最悪なのはアトレティコで、ええ、年明けのモンテリビ遠征でジローナに負けた彼らはすでにアスレティックに抜かれて5位になっていたんですけどね。それでも同じ勝ち点だったのが、土曜にバルベルデ監督のチームがレアル・ソシエダとのバスクダービーに2-1と勝ったせいで、3差をつけられてしまったんですよ!

いえ、首位陣2チームと7差だったバルサも今週末のリーガのオサスナ戦が延期となるため、勝ち点では同じに留まったものの、アスレティックに抜かれ、4位陥落しているんですけどね。この分だと、月末まで、ジローナの1人天下が続くことも十分、あり得そうですが、さあて。実際、スペイン・スーパーカップのトバッチリを喰らった弟分チームたちも気の毒で、来週ミッドウィークのコパ16強対決でそれぞれ、セビージャ、ジローナをヘタフェ、ラージョが破った場合、彼らも3週連続で週2試合ペースを強要されることに。兄貴分たち程、過密日程に慣れていないだけに、いくらこの週末は暇だったとはいえ、不満が溜まるところかもしれませんよ。

まあ、その辺はまた後日、お話しすることにして、今週水曜に始まったスペイン・スーパーカップ準決勝から、振り返っていくと。今季2度目のマドリーダービーとなった対戦では、うーん、早くも前半7分にCKから、エルモーソが先制点を挙げた時には、シーズン前半、全ての得点をヘッドで決め、3-1とアトレティコが勝利したリーガダービーのデジャブのように思えたんですけどね。その時と大きく違ったのはシメオネ監督のチームの守備力の劣化ぶりで、ええ、17分にはモドリッチのCKから、サビッチのマークを逃れたリュディガーがヘッドで撃ち返し、早々にマドリーが同点に追いつくことに。

それどころか、30分にはカルバハルのラストパスをメンディがどこぞのストライカーかとまごうが如きtaconazo(タコナソ/ヒールキック)でゴールにして、逆転されてしまったアトレティコだったんですが、まだこの時は大丈夫。そう、37分にはグリーズマンがエリア前からgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)を決めて、故ルイス・アラゴネス監督の持つクラブ史最多得点記録を174点に塗り替える同点ゴールを入れてくれたから。ハーフタイム前にはヒメネス、サビッチをかわして、ロドリゴが撃ったシュートをGKオブラクが脚でparadon(パラドン/スーパーセーブ)してくれたおかげもあって、2-2と拮抗を保ったまま、後半に入ったところ…。

いやあ、景気の良すぎた前半を両チームとも反省したんですかね。急に試合が動かなくなってしまったため、21分には双方、モドリッチをクロースに、サムエル・リノとサウールをモリーナとリケルメにとメンツを変えていたんですが、やっぱり早すぎたんでしょうか。33分、リケルメのクロスをモラタに邪魔されながら、GKケパがクリアしたボールがリュディガーに当たり、オウンゴールでアトレティコが2-3とリードしたのは。ええ、その瞬間、TV画面のタイム表示を睨みながら、「No es nada nuevo, puro ADN Real Madrid/ノー・エス・ナーダ・ヌエボ、プーロ・アーデーエネ・レアル・マドリッド(全然、目新しいことではない。レアル・マドリーの純正DNA)」(アンチェロッティ監督)を思い浮かべたのは間違いなく、マドリーファンだけではなかったかと。

そう、直後にメンディ、チュアメニをカマビンガ、ブライムに交代して、チームをリフレッシュしたマドリーは39分、「El Atleti le faltó energía en la recta final/エル・アトレティ・レ・ファルトー・エネルヒア・エン・ラ・レクタ・フィナル(アトレティコは終盤、エネルギーに欠けていた)」(アンチェロッティ監督)ことも利用したんですよ。ビニシウスがエリア内左から撃ったシュートをオブラクが弾いたところ、その跳ね返りをコケが悠長に見守る中、ボールをゲットしたのは猛ダッシュをかけたベリンガム。その2度に渡るシュートはDF陣がブロックしたものの、最後はカルバハルに同点ゴールを決められてしまうとは、こんなシーンこそ、まさに2014年のCL決勝以来、延々と続くデジャブと言っていい?

そのまま試合は3-3で延長戦に入ったんですが、何せ、体力の尽きたアトレティコの選手交代といえば、まだ90分が終わる前にデ・パウルがビツェルとなり、モラタこそ、コレアと代わったものの、あとはハビ・ガラン、アスピリクエタと、最後はチームの7人がDFになる始末でしたからねえ。ホセル、セバージョス、ギュレルと次々、アタッカーをつぎ込んだマドリーに対して、以前、シメオネ監督の下で第2監督を務めていたモノ・ブルゴスも「2歩前に出ることを探すチームと3歩下がることを求めるチーム」と言っていたように、何とか、PK戦まで持ちこたえたかったようですが…。

それだって、2020年のスペイン・スーパーカップ決勝ではサウールとトマス・パーティ(現アーセナル)が次々とPKに失敗し、4-1で敗れているんですから、まったく意味不明な試みだったんですが、その日は後半11分に決着がつきます。ええ、今季の新しいシステムで攻撃参加の増えたカルバハルが、「Pensé en ponerle un balón a mi cuñado y que lo metiese/ペンセー・エン・ポネールレ・ウン・バロン・ア・ミ・クニャードー・イ・ケ・ロ・メティエセ(ボクの義兄弟にボールを出して、ゴールを入れてもらおうと思った)」と奥さん同士が姉妹のホセルにクロスを入れたところ、そのヘッドがサビッチに当たり、これもオウンゴールで勝ち越し点を奪われているって、これじゃ、何度も好セーブでゴールを死守していたオブラクだって、たまったもんじゃありませんって。

かてて加えて、延長戦後半ロスタイムなど、CKからの全員攻撃にオブラクも加わったところ、続くアスピリクエタのロングスローインをマドリーにクリアされ、ブライムとボールを求めて競争に。全てのアトレティコファンからリスペクトされている守護神の売りが足の速さではないことは明白で、ビニシウスが負傷から復帰以来、控えに戻りながら、アピールに余念のない23才のFWが先に着き、ガラ空きのゴールに止めの5点目を送り込まれた時にはもう、私もいたたまれない気分になったんですが、仕様がないですよね。だって、アトレティコにはマドリーに匹敵するだけの体力がないんですもの。

結局、5-3で試合は終わり、彼らは準決勝敗退ですごすごマドリッドに戻ることになったんですが、とにかく心配なのは昨今の大量失点傾向。ええ、年明けはコパ・デル・レイ32強対決のルーゴ(RFEF1部/実質3部)戦こそ、1-3で勝ったものの、ジローナには4-3で敗戦。このマドリー戦でも3点も取りながら、勝てないとなれば、まさに「Esto es como cuando llegué al club. El equipo hacía goles, pero no defendía tan bien/エストー・エス・コモ・クアンドー・ジェゲ・アル・クルブ。エル・エキポ・アシア・ゴーレス、ペロ・ノー・デフェンディア・タン・ビエン (私たちがクラブに来た時のようだ。チームはゴールを入れたが、そんなによく守れなかった)」(シメオネ監督)状態そのものですって。

今はDF陣にケガ人がいる訳でもないのにこんなでは、この週末には試合がなく、土曜から練習を再開したアトレティコの次戦が再び、コパ・デル・レイ16強対決のマドリーダービーとなるのはただただ、不安しか沸かないんですが、こればっかりはねえ。少なくとも来週木曜の対戦はメトロポリターノ開催とあって、ほとんどマドリーファンばかりだったリアドのアル・アルワル・パークとは違い、内弁慶ぶりを心おきなく発揮できるのが、せめてものファンの心の拠り所となる?クラブ最多得点記録に並んだ日はヘタフェに追いつかれて、3-3の引分け。更新の試合は敗戦と恵まれていなかったグリーズマンを称えるイベントもキックオフ前に予定されているその日ぐらいは、チームの勝利で祝ってあげることができるといいのですが。

一方、翌木曜にオサスナをレバンドフスキとジャマルのゴールで2-0と破ったバルサと昨年同様、決勝で対決することになったマドリーはというと。こちらは準決勝の延長戦でふくらはぎがつったカルバハルが金曜まで練習を休んでいたんですが、前日記者会見でアンチェロッティ監督は日曜午後8時(日本時間翌午前4時)からのクラシコ出場に差し障りがないことを確約。どうやら、120分間フル出場したベリンガム、ナチョ、リュディガーにも元気なようで、ええ、あちらは90分で勝負がついたとはいえ、チャビ監督のチームより、中日が1日多いのは大きいですからね。

その上、バルサはオサスナ戦でラフィーニャが左の太ももを負傷。決勝に出られなくなっただけでなく、今季はシーズン前半のリーガクラシコでもモンジュイックで1-2と、ベリンガムの2発でお家芸のremontada(レモンターダ/逆転劇)を見せつけられて、黒星を喰らっていますからね。今回もマドリーが優勢な気がしなくはないんですが、何があるかわからないのがクラシコの醍醐味。ちなみに昨年はガビ、レバンドスフキ、ペドリがゴールを決め、ベンゼマ(現アル・イティハド)の名誉の1点だけにマドリーを抑えたバルサが1-3で勝利と、宿敵からタイトルを奪い取ったのが後押ししたか、リーガでも優勝していましたが、もしかして今季もこのスーパーカップが流れを変えるキッカケとなる?ここまでアンチェロッティ監督とチャビ監督の対戦は4勝4敗1分けとまったくの五分なんですが、今季最初のトロフィーをスペインに持って帰るのは果たして、どちらのチームになるのでしょうか。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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