〈1.1大震災~連載ルポ〉とどまるか、離れるか 被災者葛藤

押し寄せた波に1階部分がのまれた家屋=13日午前11時40分、珠洲市三崎町寺家

  ●「津波は怖い。でも」

 被災地で仮設住宅の整備が進む。珠洲市内で建設が始まった2カ所は、いずれも津波の浸水想定区域。避難所に身を寄せる高齢者の多くは「津波は怖い。でも、ここで暮らしたい」と口々に話す。津波被害に遭った三崎町の男性もその一人。自宅が波にのまれ、市外への一時的な避難を検討しているが、「ここで漁師をして畑をしたい」と本音を明かす。とどまるか、離れるか。葛藤が続く。(珠洲支局長・山本佳久)

  ●浸水区域で仮設整備 

 地震では能登半島沿岸の各地で津波が発生した。京大防災研究所などの現地調査によると、珠洲市三崎町寺家(じけ)には高さ4.7メートルの津波が到達したとみられる。

 寺家の海沿いに並んでいた古い家屋は、津波でほぼ全壊、半壊した。同所で漁師をしている奥浜敏孝さん(68)の自宅にも波が押し寄せ、持ち船2隻は流された。1日以降、妻と息子と3人で、高台にある避難所で過ごしている。

 避難所近くにある、みさき小グラウンドで仮設住宅の建設準備が始まった12日、奥浜さんに入居する考えを尋ねると「すぐに入りたい」と答えが返ってきた。

 みさき小は市の津波浸水想定区域に含まれるが、「この年になって他所(よそ)で暮らすなんて不便で仕方ない」と奥浜さん。ただ、金沢方面への避難を望む妻や息子と話をすると、残りたい気持ちが揺らぐこともある。仮設住宅が着工して以降、家族で話し合いを重ねるが、行き先はまだ決まっていない。

  ●「わしは長男」

 同じく津波浸水想定区域に仮設住宅が建てられる正院小グラウンドでは、測量などの準備作業が慌ただしく進む。その様子を見守っていた畠中勝次(かつじ)さん(73)=正院町川尻=も入居希望者の一人だ。

 「ここ(正院町)は他所に出たきょうだいが正月やお盆に帰省する場所。親の墓もあるんや」

 畠中さんは8人きょうだいの長男で、残る7人は横浜や大阪、金沢などで暮らす。幼い頃から「お前は長男。いずれはここに帰ってきて、墓を守らんとならん」と教えられてきたため、一昨年に45年間生活した名古屋を離れ、実家に戻った。

 地震で家が傾き、市外に住む子どもたちから「一緒に暮らそう」と誘われているが、断っている。「わしは長男。きょうだいが帰る場所がなくなるから、ここを出るわけにはいかん」

  ●命を第一に

 被災地はライフラインの復旧が見通せない。災害関連死が増える中、石川県は被災地外のホテル、旅館などに無償で移る「2次避難」を要請しているが、先人の教えや生業(なりわい)を守りたいとの思いから、奥能登を出ることに抵抗感を持つ人は少なくない。今は何より、命を守ることを第一に考えてほしい。

  ●2次避難市民に声かけ 輪島市長

 輪島市の坂口茂市長は14日、市民に対し、防災無線で市外への2次避難を呼び掛けた。13日から避難所の住民に2次避難を求める直接の声かけもしており、防災無線、市公式ラインとともに今後も要請を続ける。

 坂口市長は、電気・水道などのライフラインが壊滅的な被害を受け、復旧には相当の時間がかかるとし「避難所での生活環境は悪化する恐れがあり、安全で快適に生活できる市外への2次避難をぜひお願いします」と呼び掛けた。

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