現代の「鷹匠」は引っ張りだこ…なぜ? 半年先まで予約埋まる大忙しの日々

タカを放つ鷹匠の吉田さん。害鳥を追い払った後も定期的に飛ばすことで新たな群れの侵入を防ぐ=福井市中央卸売市場
手元に戻ってきたらエサを与える
ワゴン車からタカを取り出し、害鳥駆除の準備をする

 徳川家康や織田信長ら歴戦の戦国武将が好んだといわれる鷹狩り。現代で目にする機会は限られるが、実はタカを操る「鷹匠(たかじょう)」は各地で引っ張りだこという。活躍しているのは、タカを使ってハトやカラスを追い払う害鳥駆除。福井県内の市場や工場、市街地の街路樹でも、石川県の業者が定期的に駆除作業に精を出す。どうやって駆除するのか。現場に同行した。

食物連鎖の頂点

 昨年秋、福井市中央卸売市場に害鳥駆除業者「鷹丸」社長の吉田剛之さん(51)=石川県小松市=と、吉田さんの左腕に止まる全長約60センチのハリスホークの雌「紅葉」の姿があった。吉田さんは、徳川将軍家ゆかりの鷹狩りの技を受け継ぐ「諏訪流」の鷹匠。勢いよく腕を振ると、紅葉が飛び立ち市場の建物の屋根に止まった。合図をすると、吉田さんの腕に戻ってきた。2~3時間、建物周辺を歩き、定期的に立ち止まっては紅葉を飛ばした。

 「ハトやカラスに、天敵であるタカの縄張りであることを認識させているんです」と吉田さん。山野での食物連鎖の頂点にいるタカの縄張りには他の鳥が寄りつかなくなる習性を利用しているのだ。吉田さんによると、市場には6年ほど前には200羽ほどのハトがいたが、タカを使った駆除によって、今ではハトやカラスなどの害鳥は全く寄りつかなくなった。この日も、100メートル以上離れた街灯に止まっていた1羽のカラスは、吉田さんと紅葉が現れた途端に逃げ去った。

わらにもすがる思い

 吉田さんは、北陸や東海地方の企業や自治体、市場などから依頼を受け、連日各地を飛び回る。半年先まで予約で埋まっているというほど大忙しだ。特に依頼が多いのが製造業の工場。鉄骨組の工場は出入りしやすく、さらに外敵から身を守りやすいのでハトがよく営巣するという。

 ハトがすみつくことで、ふんが製品に付いて出荷できなくなるほか、悪臭や、ふんが乾燥して舞い散るなどの被害がある。吉田さんによると、多額の費用をかけてネットを設置するなど対策を講じているところもあるが、効果はあまりなく「口コミで聞いて、わらにもすがる思いで依頼してくる会社が多い」と話す。県内では県からの依頼を受け、福井市の大名町交差点周辺でムクドリ駆除も行う。

 依頼を受けると、まずは数日間続けてタカを飛ばして害鳥を威嚇する。さまざまな時間帯に飛ばすことでタカの縄張りになったと害鳥に認識させるという。短くて3カ月、長くて1年ほどで寄りつかなくなる。追い払った後も定期的にタカを飛ばし、新たな群れの侵入を防ぐ。

後世に残したい

 吉田さんがタカやハヤブサなどの猛禽(もうきん)類に興味を持ったのは2005年のこと。勤務していた福井市内のペットショップに、弱ったハヤブサを保護したお客さんが来店した。専門ではなかったが、回復するまで預かって面倒をみた。このことがきっかけで、猛禽類を飼うように。さらに、鷹匠の技術を知ると、「後世に鷹匠の技術を残したい」と一念発起。NPO法人日本放鷹協会に入会して諏訪流の技を習得、鷹匠の認定を受けた。そして「社会の役に立つことが、伝統継承には有利になる」と13年に鷹丸を起業した。

 現場へはワゴン車にハリスホークやハヤブサなどを何羽も乗せて向かい、現場や天候に合わせて使い分けている。例えば、ハリスホークでも、風が強い日は体の大きな雌、金沢市のJR金沢駅前にあるガラス張り天井の広場「もてなしドーム」のような通行人が多い場所では、雌よりも小さく俊敏性の高い雄を使っているという。

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 吉田さんは「害鳥対策に困っている人の力になっていきたい」と話し、“人鷹(じんよう)一体”の技できょうも害鳥に目を光らせている。

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