自衛隊内“ハラスメント”弁護士が独自調査 「加害者が昇任」「声をあげれば不利益」の切実な実態

会見に臨んだ「自衛官の人権弁護団」団長・佐藤博文弁護士(左から2人目)ら(撮影:榎園哲哉)

自衛隊のハラスメント問題に対し、表に出にくい自衛隊員のハラスメント被害を可視化しようと「自衛隊のハラスメント根絶実現プロジェクト(ハラ根)」と題したアンケートアクションをWEB上で行っていた「自衛官の人権弁護団」(事務局・札幌市、団長・佐藤博文弁護士)は1月15日、東京地方裁判所司法記者クラブ(東京・霞ヶ関)で会見を開き、アンケート結果を報告した。

隊員・元隊員、家族らから140件の回答

衝撃的な数字と言えるかもしれない。防衛省・自衛隊のハラスメントへの取り組みに対し、アンケートに回答した現職・OBの自衛隊員ら、およそ9割が「(有効とは)思わない」という意志表示をした。

元陸上自衛官、五ノ井里奈さん(元1陸士)のセクハラ被害の告発などを受けて、防衛省は特別防衛監察を行いハラスメントの実態を調査、その結果を昨年8月に公表した。1414件(人)の被害申し出があった。

報告を受け、部下に暴言を吐いていた陸上自衛隊の将補を2佐へ2階級降格させる処分も行っている。これは一般企業であれば取締役を部・課長等に降格させるような類例のない厳しい処分だ。

しかし、監察が隊員たちの“声”を十分くみ取っていない、と推察されることから、人権弁護団は昨年11月1日から12月31日までの2か月間、自衛隊員・元自衛隊員、防衛省職員等と、その家族・友人知人を対象に独自にWEB上でアンケートを行った。アンケート回答は完全匿名で、性別・年代等のみを記した。全21問で、自由記載欄も設けられた。合わせて144件の回答があり、送信ミスと思われる白紙のものなど4件が無効とされた(有効回答140件)。

回答から見えた「切実な実態」

アンケート結果の集計・分析等にあたった武井由紀子弁護士は「切実な実態に迫るような具体的な声をたくさんいただいた」と話し、回答はいずれも隊員たちの直面する問題等がつづられていた。回答要旨は下記の通り。

①9割が自衛官・元自衛官からの回答(残る1割は事務官など)。男性90名(81・1%)、女性20名(18%)

②被害当時の年齢は10代3名、20代28名、30代29名、40代33名、50代14名

③被害が発生した場所(部隊等)は陸自55名、海自22名、空自26名

④パワハラが81%、セクハラが9%、マタハラが2%、類型不明が8%

⑤加害者の属性は所属長59名、上官47名。加害者が複数と回答した人は5割、単独は4割

⑥加害態様は暴力、暴言、過重な業務が多く、告発で2次被害を受けるケースも多数

⑦ハラスメントについて自衛隊内で相談した人70・5%、相談していない人29・5%

⑧自衛隊内で相談していない人の理由は、「報復や不利益に遭う」26名、「何もしてもらえない」22名、「相談窓口や相談員を信用できない」12名など

➈告発後に加害者が、処分された2名、調査された22名、調査されたが解決されない15名、加害認定されたが処分されず8名

⑩被害者の6割が相談を理由に不利益扱いを経験。退職強要4名、減給3名、降任・昇任留保6名、不利益な配置転換17名、上司から嫌がらせ16名、職場で嫌がらせ14名

⑪相談で嫌な思いをしなかった人は4%、残る96%の意見は「組織の認識が甘い」(59名)、「なかったことにされた・されそうになった」(50名)など

⑫隊が行うハラスメントへの取り組みは防止に有効かに対し、89・2%「思わない」

⑬その理由は「ハラスメントをした人たちが昇任している」、「声をあげても黙殺されてきた。声をあげたことにより、不適切に人事評価を下げられ、給与や昇任面でも不利益を受けている」など

⑭今後どうしたら良いかに対し、第三者機関による調査や判断、被害者保護を望む声が多数。非当事者(家族、友人等)からハラスメントを理由とする自死などの報告も複数あり。アンケートや提言に対する感謝の声も多数

円グラフで可視化されたアンケート(撮影:榎園哲哉)

「どうして国民や国を守れるのか」

アンケートには、20~30歳代の兵、下士官(士・曹)と思われる隊員のほかに、40~50歳代の士官・幹部(尉官以上)と思われる隊員からの回答も少なくなかった(回答に階級明記はなし)。今後の取り組みとして、オンライン署名(https://chng.it/dqygDZygLL)を進めていることも伝えられた。

一方、記者会見に続いて、会場を都内の専修大学に移して行われたイベント「ハラスメント根絶プロジェクト~自衛官アンケート報告と今後のアクション~」では、アンケート結果が円グラフ等にされてスクリーンに映し出され、隊員たちの声がより“可視化”された。

専修大学で行われた「ハラスメント根絶プロジェクト」イベントには多くの市民も訪れた(撮影:榎園哲哉)

元日の日本を襲った石川・能登半島地震で、防衛省・自衛隊は統合任務部隊を編成。陸海空自衛隊1万人体制で被災者の救援活動に全力であたっている。

国防とともに、災害派遣活動も任務とする自衛隊は“最後の砦”として、国民を守り抜くことが求められ、そして期待される。「自衛官の人権弁護団」団長の佐藤弁護士はこう言葉に力を込めた。

「隊員の人権を守れないような組織がどうして国民や国を守れるのか」

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