まるで豪華な船旅! 長崎マリオットホテル開業 記者2人が宿泊…おもてなしの秘訣は?【ルポ】 

長崎マリオットホテルの外観は客船がモチーフ。手前の波を打つような屋根は長崎駅=長崎市尾上町

 世界屈指のホテルブランド「マリオット」のサービスは、まるで豪華な船旅のようだった-。16日開業する長崎マリオットホテル(長崎市尾上町)に記者2人が一足早く宿泊体験。その高い品質を支える舞台裏ものぞいた。

 7階のフロント前で、スタッフが笑顔で出迎えてくれた。型通りの情報提供だけでなく、なにげない会話で私たちの緊張をほぐす。佐藤渓夏(けいか)さん(25)に接客の心得を聞くと「15分(ぶん)の5ルール」を教えてくれた。自分の15歩前に客が来ると会釈、5歩前であいさつ。「フロントでいかに心をつかむかが大事。名前を覚えていただけるくらいになりたい」。“ホテルの顔”としての心意気がうかがえた。
 7階の飲食店は三つ。朝のブッフェや昼夜の西洋コース料理などを楽しめる「HARBELLA(ハーベラ)」、鉄板焼きとすしの「De Jima(デジマ)」。記者は、青い鉱石から名付けたバーラウンジ「THE AZURITE(ジ アズライト)」でストロベリーアフタヌーンティーを試食した。県産イチゴをまるごと、ソース、ジャムとふんだんに使ったムースやタルトを味わい、あめ細工は目でも楽しめる。紅茶は秋月園(長崎市)の茶葉を使用。使うフルーツは季節によって変えるそうだ。

「ジ アズライト」で提供するストロベリーアフタヌーンティー

 榮岩(はえいわ)雅幸総料理長によると、館内全食材の6割が本県産。「食で長崎をアピールしたい」と語る。ベジタリアンやハラールなど宿泊客の要望にも柔軟に対応する。

▽ストーリー
 上階のフロアを歩き回ると、爽やかな香りが漂っていた。心地よい音楽は時間帯や場所によって変える。随所に波佐見焼や長崎市のガラス細工などアートが飾られている。交易で栄えた長崎の歴史を踏まえ、ポルトガルなどの海外アーティストに依頼したアートも多い。同ホテル運営会社の浜田真知子社長は「しつこいくらいに『長崎』を採り入れている」と話す。
 インテリアやアートについてスタッフにあれこれ尋ねると、明瞭な答えが返ってくる。その秘密は、全員が肌身離さず携帯する小さなカードにあるようだ。「素晴らしさの法則」として▽気遣う▽ストーリーを伝える▽非日常を演出する▽オープンマインド(広い心)を持つ-とある。このうち「ストーリーを伝える」ためスタッフは、デザイナーから学んだり、県内観光地を巡って魅力を探したりといった研修を重ねてきた。
 京都の外資系ホテルから移った川原洋美さん(31)は「観光地や街並みを見て『長崎らしい』と感じるので終わらず、その歴史や背景も知っていただきたい」と意気込む。

アートや長崎の魅力を説明する川原さん

▽非日常体験
 最上13階のラウンジ「M CLUB」は上級会員と上級客室の宿泊者のみが利用できる。テーマは「長崎の宝探し」。そのぎ茶のあめ、ちゃんぽんスナックなど総支配人らが選んだ地元菓子が並ぶ。意外にも庶民的だが、ここの接客責任者、アントニオ・フスターさんは「その土地だけの特別な体験をお客さまは求めている。ローカルなものこそ喜ばれる」という。
 フィリピン出身で日本語も堪能なアントニオさんは、学生時代は県内の大学に在籍。その後は国内外の高級ホテルを渡り歩き、名だたる要人やスターをもてなしてきた。久しぶりに長崎に戻り、「『ただいま』という感じ」と白い歯を見せた。
 館内は窓を通して見える景観に溶け込むよう、青やネイビーなど落ち着いた色調で統一されている。客室のコンセプトは「プライベートクルージング」。記者が泊まる客室からは稲佐山の夜景が見えた。青いグラデーションの壁には波佐見焼の船形オブジェ。帆をイメージしたライトもあり、まるで航海中のようだ。ふかふかのベッドで大海原に揺られるように就寝した。

客室から望む夜景。稲佐山の電波塔や斜面地に灯るあかりがきらめく

 翌朝、チェックアウトの際にスタッフに勧められ、テラスに出た。ちょうど大きなクルーズ船が女神大橋をくぐり、港に入ってきた。「日常を少し変えたいという地元の方にも来てほしい」という浜田社長の言葉に納得した。
 世界最大のホテルチェーンが長崎の魅力を詰め込み、世界中から来る客をもてなす。「マリオットブランド」の裏側には、宿泊客の非日常体験を用意周到に演出するスタッフの姿があった。記者もまた、豪華な船旅を終えたような気持ちでホテルを後にした。

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