えにしの糸を

 歌人の岡野弘彦さんに新潟県中越地震の被災地に降る雨を詠んだ一首がある。〈地震(ない)の後 地(つち)にひびきて降る雨の三夜やまざれば人さらに死す〉。天と地は時に、申し合わせたかのように人をさいなむ▲能登半島地震の被災地も、雪が覆っては雨が濡らし、厳しい寒さが襲う。避難所生活、地域の孤立、断水、停電。あらゆる「中断」の解消にはまだ遠いが、人から人へ、支援をつなぐ動きもある▲島原ボランティア協議会の前理事長、旭芳郎さん(69)が地震後、石川県輪島市に入ったと、14日の記事にあった。南島原市から飲料水200本を車に積んで被災者宅に配り、どんな救援が必要か、つぶさに見たという▲「災害ボランティア」という言葉もなかった時代、有志による避難所のトイレ掃除、全国から集まったボランティアの受け付け、救援物資の仕分けといった活動は、雲仙・普賢岳災害を原点とし、今につながる▲その先駆けの人物に聞いたことがある。支援に出向く人だけでなく、資金援助をする人、現地活動で仕事を休む人をカバーする同僚の存在があって、ボランティア活動は成り立つのだ、と▲阪神大震災が起きたきょう1月17日は「防災とボランティアの日」。天と地は重ねて人をさいなむが、見知らぬ間柄であれ、人には「縁(えにし)の糸」がある。(徹)

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