子どもの声が消えた京都のニュータウン 消滅するコミュニティー、高齢化で自治会解散も

指定管理者制度を導入している府営住宅向日台団地の消防訓練。コミュニティー形成支援の一環で開かれた。向島市営住宅での役割にも注目が集まる(11月、向日市向日町北山)

 建物の老朽化や入居者の高齢化が進む向島ニュータウン(京都市伏見区)。地域の自治を担ってきた市営住宅のある自治会が本年度末での解散を決めた。1977年のまちびらき以降、団地に子どもたちの声が響いていたころは年中行事で地域を盛り上げてきた。時を経て市営住宅は空き住戸が目立つようになり、役員のなり手不足が深刻化、苦渋の決断に至ったという。消えゆくコミュニティーに対し、市は向島市営住宅などを対象に2024年度から指定管理者制度を導入することを決定した。

 「1街区在住の方は役を引き受けて下さい」「本部役員が決まらない時は自治会が存続できません」-。10~11階建ての6棟860戸で構成する向島市営住宅第1街区で、数年前からこんな案内文が複数回各戸配布された。だが、次期役員のなり手は結局現れず、24年3月末をもって自治会は解散することになった。

 まちびらきから程なく入居し、1街区自治会長を務めた経験もある増田征治さん(79)は「入居してすぐに自治会が作られた。活動が盛んで、夏祭りや敬老会なども続けていたが、子どもも少なくなって今は何もやらなくなってしまった」と現状を語る。

 解散が決まった今、不安は尽きない。「住民が顔を合わせて親睦を深める機会が失われるのは残念。共用部分の管理なども含め、今後どうなるのか心配する人も多い」

 管理代行を担っていた市住宅供給公社の担当者も「自治会は地域のトラブルなども把握していたので頼りにしていた。解散後はどこに相談すればいいのか」と困惑する。

 市営住宅の自治会を対象に市が17年に実施したアンケート。自治会活動で困っていることについて「高齢化、若年世帯の減少等により自治会役員の担い手が見つからない」の項目が最多だった。また、18年の市住宅審議会で示された資料によると、建設年次が古い団地ほど高齢化率や高齢単身世帯率が高くなり、1世帯当たりの人員も減少する傾向という。入居開始から半世紀近くになる向島ニュータウンの市営住宅は、少子高齢化やコミュニティーの希薄化が先行している地域と言えそうだ。

 そんな中、市は向島市営住宅と際目市営住宅(伏見区)の計約4300戸を対象に、24年度から指定管理者制度の導入を決めた。市営住宅では初めてで、マンション管理会社「東急コミュニティー」(東京都)を選定。維持管理の効率化と入居者サービスの向上を目指し、高齢者や障害者向けの見守りサービスや認知症講習会、体験型防災訓練などのコミュニティー形成支援も行うという。

 同社は府営住宅での実績があり、建設から50年以上が経過している向日台団地(京都府向日市)もその一つ。向日台連合自治会の西川也寸志会長(70)は「対応が早く、消防訓練の段取りなどもやってくれるのでありがたい。良好な関係を築けている」と説明する。ただ、23年度は5年目で指定期間の最終年度だが、24年度以降も指定管理者になる確約はない。西川さんは「どうコミュニケーションを取っていくのかが一番重要だ。もし指定管理者が変わることになると、また一から関係を築かなければいけない」と課題も口にする。

 高齢化に向き合う向島市営住宅では、新たな兆しも見えてきた。23年12月、市営住宅の空き住戸を利用した若者の新たな居場所「向島ユースセンター」がオープン。地域のイベントへの参加などの活動も予定されているといい、運営する市ユースサービス協会の大下宗幸所長は「活動を通じて若者たちが地域に参画し、地元に愛着を持ってもらえれば」と期待を込める。多様な立場や世代の人たちが互いに関わり合い、地域社会の衰退に歯止めがかけられることが期待される。

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