社説:土地利用規制法 情報開示を徹底せねば

 安全保障の上で重要だとして、国が私有地に対する利用制限の網を広げている。

 政府は、自衛隊基地などの周辺で利用状況などを調査する土地利用規制法の指定区域に、大津市、高島市の自衛隊施設3カ所を含む25都道府県の180カ所を追加した。一昨年9月に全面施行後、対象は399カ所に増えた。

 さらに追加指定の候補も184カ所あり、京都府内の自衛隊と米軍施設の周辺11カ所が挙がる。舞鶴市の海自舞鶴地方総監部と北吸係留所、京丹後市の米軍経ケ岬通信所と空自経ケ岬分屯基地は「特別注視区域」となる。対象エリアは府内11市町に及ぶ。

 指定されれば国が所有者の個人情報を調べ、施設の機能を損なう行為と判断すれば、勧告や罰則付きの命令も出せる。国の監視下で私権を制約するのに、地元への周知や情報開示は十分とはいえない。恣意(しい)的な運用への不安を拭うよう、丁寧な説明を尽くすべきだ。

 同法に基づく指定では、自衛隊や海上保安庁、米軍、原発の施設の周囲約1キロのほか、国境付近の離島を注視区域とする。自衛隊司令部の近辺などは特別注視区域として、土地売買の事前届け出を義務付けている。

 全面施行から1年余りとなる同法は、外国資本の土地買収への懸念が立法理由とされたが、実際に防衛面への影響が出ているかは不明確なままである。

 国は勧告や命令の対象として自衛隊機の離着陸を妨げる工作物設置などを示し、私有地の集会開催は該当しないとしているものの、例示した類型以外でも妨害行為になりうるとする。

 当局の解釈次第では、基地に批判的な市民運動の萎縮につながりかねないとの指摘が根強い。

 米軍基地が集中し、離島での自衛隊施設の新増設が続く沖縄県は昨年6月、国指定に「強い反対」を示す意見を出した。県内の対象が70カ所にも及び、基地負担軽減が進まない中で経済活動にも負担を強いるものだとしている。

 国は懸念に向き合うどころか、次々と指定区域を増やしており、施設の対象を鉄道や放送局にも広げる可能性があるとみられている。

 さらに、風力発電が自衛隊レーダーに影響を及ぼす恐れがあるとして、防衛相が指定すれば建設を規制できる新法制定も検討しているという。

 なし崩しで国民の権利を損ねることがないよう、慎重な対応が欠かせない。

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