都市部沿岸の海底走る活断層 “危険度最高ランク” 「能登半島地震と似た津波のおそれ」と専門家 「西日本は南海トラフ地震直前の“地震活動期”」 足元に潜むリスクとは【全国の活断層(Sランク)一覧】

南海トラフ発生前の地震活動期 西日本の地震リスクの現状は

6400人を超える犠牲者を出した阪神・淡路大震災(1995年)以降、西日本は、「南海トラフ地震発生前の『地震活動期』に入っている」とも言われています。

元日に起きた「能登半島地震」は、発生が差し迫っているとされる次の巨大地震である「南海トラフ地震」との関連はあるのでしょうか。今回の能登の大地震について事前に警鐘を鳴らしていた地震の研究者に、能登半島地震と南海トラフ地震との関連性や西日本が抱えている地震リスクについて話を聞きました。

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第一報に「最悪なことが起きてしまった…」

石川県内で最大震度7の激しい揺れを観測し、阪神・淡路大震災のおよそ8倍のエネルギーだったともいわれる今回の「能登半島地震」。2020年12月から、謎の“群発地震”が頻発していた能登半島周辺で、「大きな地震が起こる可能性がある」として、重点的に調査・研究に取り組んでいた京都大学防災研究所の西村卓也教授です。

京都大学防災研究所地震災害研究センター 西村卓也 教授
「能登半島では以前から群発地震が続いていたこともあって、我々も観測をしていたが、最初に第一報を聞いたときは、『最悪なことが起こってしまったな』というのが…。」

謎の群発地震と地盤の隆起 GPSが捉えた異変の理由は

西村教授はスマホやカーナビの位置情報などにも広く使われているGPSのデータを使い、地盤の動きをミリ単位で解析、地震を引き起こす「ひずみ」が、どこにたまりやすいのか調べる研究をしています。

2020年12月以降、能登半島周辺では群発地震が相次ぎ、GPSのデータから地盤が大きく隆起する様子が観測されていました。

京都大学防災研究所地震災害研究センター 西村卓也 教授
「(珠洲市で震度6強を観測した)去年5月の地震も十分大きい地震だとは思うんですけど、この地域において、活断層かなり大きな地震を起こすようなポテンシャルがあるようなものがあることがわかってたので、それが、去年の地震はその活断層自体は動いていない。動いたとしても本当にごく一部だったので、まだの残りの大部分は動いていない活断層があるというところがあったので、大きい地震が起こる可能性がまだあるんだと言ってました。」

これには地下深くにある「流体」が、地表付近へ上がってきて活断層付近へ流れこむことで、活断層を刺激したのでは、と考えられています。

京都大学防災研究所地震災害研究センター 西村卓也 教授
「今回の地震は想定外とは言えないということですね。ある程度考えられていた、いくつかのシナリオのうち、最悪なケースが起こってしまったと考えています。」

「能登半島地震」と「南海トラフ地震」の間に関連は?

今後30年以内に70~80%、40年以内であれば90%程度の確率で起こるとされる「南海トラフ地震」。マグニチュード8~9の “巨大地震”によって、西日本は広く壊滅的な被害に見舞われることが想定されています。

今回の「能登半島地震」は、発生が差し迫っているとされる「南海トラフ地震」となにか関連はあるのでしょうか。

京都大学防災研究所地震災害研究センター
西村卓也 教授
「色んな方の色んなご意見があるが、私自身は、今回の『能登半島地震』と『南海トラフ地震』は、直接は関係していないと思っています。能登半島はかなり太平洋側からは遠い、かなり北に外れた所に位置している。」

京都大学防災研究所地震災害研究センター
西村卓也 教授
「フィリピン海プレートの沈み込み方向とかからいっても、能登半島のところに沈み込んでいくのは、そのプレートの方向をたどっていくと関東地方あたりになっていくので、いわゆる南海トラフとはまた違う。」

「南海トラフ地震」は、海側のプレートと陸側のプレートの境界付近が広い範囲で大きくすれるため、巨大地震となります。それに対して、内陸地震は地表付近の「活断層」で起こるもので、地震の規模は小さいものの、地表すぐ近くで起こるため激しい揺れを伴います。

京都大学防災研究所地震災害研究センター 西村卓也 教授
「『ひずみ』のたまりやすさ、みたいなものはGPSの観測データからある程度、モニタリングすることができます。特に西日本で、ひずみのたまり方が速いと思われるのが、いわゆる「新潟・神戸ひずみ集中帯」とよばれる地域で、いわゆる関西の神戸・大阪・京都から琵琶湖から福井・長野県を通るライン。あとはそれと同じくらいのものが九州の中央部、大分・熊本あたりにもある状況。
ひずみのたまり方が遅くても大きい地震は、長い期間、ずっとひずみをためていると、やはり地震は起こりますので、ひずみのたまるスピードが遅いからといって地震が起こらない、というわけではない。」

「すでに西日本は南海トラフ地震発生前の地震活動期」

西村教授は、近畿をはじめ、中国、四国、九州などの西日本各地は、すでに「南海トラフ地震発生前の『地震活動期』にある」と指摘します。

京都大学防災研究所地震災害研究センター 西村卓也 教授
「南海トラフ地震の前後に西日本の内陸地震が活発化する傾向は色々と知られていて、ある程度、モデル的な計算からもシミュレーションで傾向を再現することも可能ですが、1944年・46年の南海トラフ地震のあと、西日本の内陸地震はかなり静かな状況が続いていた。福井地震とかいくつか例外はありますけど、1950年代から1980年代までは大きな内陸地震はほとんどなかった。」

京都大学防災研究所地震災害研究センター 西村卓也 教授
「やはり1995年の阪神淡路大震災以降、鳥取県中部地震(2000年・M7.3)とか、熊本地震(2016年・M7.3 )など大きい地震があったりして、地震活動が増えている状況があります。そういう状況は、次の南海トラフ地震が数十年後とか言われていますが、それまで続いていくんだろうと思います。」

前回の昭和時代に起きた南海トラフの地震でも、その発生前には西日本各地で大きな内陸地震が相次いで発生しました。

活断層危険度ランク2024年版を発表

内陸地震を引き起こす活断層は、全国におよそ2000あるとされています。政府の地震本部では、長さが20キロを超えるような活断層について、今後30年以内に地震が発生する確率など評価して、毎年発表しています。

現状の最新評価は1月15日に発表されたものです。全国にある114の活断層について危険度を4つのランクに分けて評価しています。最も危険度が高い「Sランク」は全国に31あります。

Sランクの活断層
北海道
「サロベツ断層帯」 「黒松内低地断層帯」
山形
「新庄盆地断層帯」一部
「山形盆地断層帯」一部
「庄内平野東縁断層帯」一部
新潟
「櫛形山脈断層帯」 「高田平野断層帯」一部
「十日町断層帯」一部
富山
「礪波平野断層帯・呉羽山断層帯」一部
石川
「森本・富樫断層帯」
神奈川・静岡
「塩沢断層帯」
三浦半島(神奈川)と周辺海域
「三浦半島断層群」一部
長野・山梨
「糸魚川ー静岡構造線断層帯」一部
長野
「境峠・神谷断層帯」一部
長野・岐阜
「木曽山脈西縁断層帯」一部
静岡
「富士川河口断層帯」一部
岐阜
「高山・大原断層帯」一部
岐阜・長野
「阿寺断層帯」一部
滋賀
「琵琶湖西岸断層帯」一部
京都・奈良
「奈良盆地東縁断層帯」
大阪
「上町断層帯」
奈良~和歌山~淡路島(兵庫)~四国北部~大分
「中央構造線断層帯」一部
広島・山口の沖合
「安芸灘断層帯」
山口・大分の間の海底
「周防灘断層帯」一部
山口
「菊川断層帯」一部
島根
「宍道(鹿島)断層」 「弥栄断層」
福岡
「福智山断層帯」
玄界灘~福岡平野
「警固断層帯」一部
熊本
「日奈久断層帯」一部
長崎
「雲仙断層群」一部

京都大学防災研究所地震災害研究センター 西村卓也 教授
「当然これは、今の地質学的、活断層の知見を集約した上で『危ない』と言っている断層です。根拠としては、比較的、数千年の間隔で地震を起こしたのに対して、最近地震が起こってないというのが調べられている断層ですので、
要は最近しばらく起きていないので、次の地震に対して満期が近いのではないか、と思われている断層。」

Sランクと評価された中には、確率的に阪神・淡路大震災の発生直前より「危険が差し迫っている」とされている活断層も存在します。その一つが広島湾を走る「安芸断層帯」です。

都市部沿岸の海底走る活断層 「地震発生直後に津波が来るリスクも」

江田島市沖から岩国市の沖合に分布する「安芸灘断層帯」は長さおよそ26キロ。阪神・淡路大震災のあと、海上保安庁の測量船などによって詳しく調査されました。もし全体が一度にズレ動いた場合、マグニチュード7.2程度の地震が起こるとされています。

京都大学防災研究所地震災害研究センター 西村卓也 教授
「安芸灘の断層帯は、今回の能登の断層と似たような感じで、半分陸で、半分海みたいなところに断層がかかっていますから、やっぱり津波というおそれもあると思うんですね。能登の地震のように津波がすぐ来るという…。地震の直後に津波が来てしまいますから。そういうところに対しても警戒が必要なのではないかと思います。」

一方で、西村教授は、活断層の評価ランクが低かったり不明だったりしても油断はできないと指摘します。

京都大学防災研究所地震災害研究センター 西村卓也 教授
「ランキング的に上の方から順番に地震が起こるモノでもないですし、ここに評価されていない、十分に調査されてなかったり、調べてもまだよくわからない断層もいっぱいあるんですね。
活断層というのは過去に地震を起こした痕跡・証拠ですから。不明であっても活動が、次の地震が起こるための準備をしている。ひずみを蓄えている可能性は十分あると思います。」

活断層が未確認でも 地震活動が活発なエリア

さらに、中国地方では、活断層が確認されなくても、地震活動が活発なエリアがあるといいます。それが山陰から広島県北部にかけての地域です。

京都大学防災研究所地震災害研究センター 西村卓也 教授
「活断層で大きい地震が起こるのは事実なんですけど、大きい地震が起こる所にすべて活断層があるというわけではどうもないようで、特に山陰から広島県北部にかけての地域は、どうも地震活動とかGPSでみるとひずみがたまりやすいことがわかっている。」

「こういう状況が、過去にわたってずっと長い間続いているとその地域に活断層が明瞭にできてくるが、まだこの地域では、地質学的な時間スケールでは、最近そういった現象が起こり始めているところで、まだ十分に活断層として認識されるほどの変動が蓄積してないのではという考え方もできる。
まだ活断層としては明瞭ではないけれども、実際地下の動きとしては、ある程度活動的な地域になっていると捉えています。マグニチュード6クラスの地震は、広島の北部から島根県にかけてだいたい20~30年に一回くらい起こっている。」

最近400年で7回発生 瀬戸内海震源の「プレート内地震」

もう一つ、中国地方の地震活動を考える上で忘れてはいけない地震があります。安芸灘から伊予灘、豊後水道にかけての瀬戸内海を震源とする地震です。沈み込むプレート内のやや深いところで起こり、2001年に起きた「芸予地震」などと同じタイプです。過去400年間で7回発生し、繰り返し大きな被害をもたらしています。

京都大学防災研究所地震災害研究センター 西村卓也 教授
「歴史的にプレート内地震、芸予地震のようなタイプがいつ起こったのかは過去400年くらいにわたって調べられている。その記録をみる限り、南海トラフ地震の発生時期と明瞭な関係はなく、ほぼ関係なく起こっているというように見えています。
ただ距離的には南海トラフとの距離は、内陸地震で活動期といわれている距離とほとんど同じくらい、むしろ近いくらいの距離関係・位置関係にある。理論的には影響があってもおかしくないなというようには思っている。まだそこは研究が進められていないところですね。」

京都大学防災研究所地震災害研究センター 西村卓也 教授
「地震動の周期が建物にどれだけダメージが与えるかいうのが決まってて、木造家屋ですと周期1~2秒ぐらいの波が一番被害を与えやすいと言われていますし、それより高い高層建築になってくると、もうちょっと長い周期2~3秒というような周期の方がダメージを与えやすいことが知られています。

京都大学防災研究所地震災害研究センター 西村卓也 教授
「今回、内陸の能登半島の地震は非常に木造家屋の被害が大きくて同じ震度6強でも例えば東日本大震災ではそれほど木賊家屋には被害がなかったというようなこともある。これは地震の、震源から出る揺れのタイプと、地下の地盤の両方が絡まってどういう周期の揺れが卓越するかで変わってくる。

京都大学防災研究所地震災害研究センター 西村卓也 教授
「特に内陸直下型の地震では比較的周期の短い木造家屋に被害を与えるような波も出やすい傾向があって、プレート境界地震は比較的震源が遠いので短い波が減衰して被害が抑えられることもありますので、単純に震度だけで被害を議論することはできませんから、やっぱり直下型地震とか、プレート内地震もそうですけど、プレート内地震も比較的、短い周期の波が出やすいと言われているので、色々と想定して備えてほしい。」

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