【インタビュー】イラク代表を目指す日本生まれの字羽井アハマドがアジア杯イラク代表を語る! 中東の雄の実力とは

アジア最強のナショナルチームを決める大会AFCアジアカップ2023が12日に開幕した。5度目の同大会制覇を狙う日本代表は19日午後8時30分にイラク代表との第2戦を迎える。

第2試合を前に、イラクスターズリーグ(1部)で日本出身者として初めてプレーしたMF字羽井(アザウィ)アハマドにQolyが独占インタビューを敢行。イラク代表を目指して両親の母国で戦う男が、ベールに包まれた中東の雄を熱く語った。

日本生まれ、イラク代表志望

――まず字羽井選手の出身地を教えてください。

生まれたのは日本ですけど、お父さん、お母さんは両親ともイラク人です。

――桐蔭横浜大を卒業して海外挑戦されました。その経緯を教えてください。

大学生のときに1回(サッカーを)挫折して…。いろいろな自分の事情で2年間くらいまともにサッカーができなかった。それでもまだ夢を諦めきれなくて、地元の友だちが海外に行っていたので、その影響を受けて自分も海外で「イラク代表になりたい」という目的のために海外挑戦しました。そこが始まりです。

――経歴をみるとオーストラリアに行かれたそうですが。

カパラバ(カパラバ・ブルドッグスFC)というチームです。当時自分が行ったときはブリスベン州1部でしたね。詳細は分からないですけど、実質3部なんですかね。でもブリスベン州だと、ブリスベン州リーグとNPLリーグ(ナショナルプレミアリーグ)があって、あまり差がなかったと思う。いまは合併したんですけど、自分が行った当時は自分がいるほう(ブリスベン州リーグ)を2部という人もいれば、NPLにいる人も(自分たちが)2部と言っていましたね。そこで1年間プレーしていました。

――そこではMVPを取られたそうですね。

そうですね、MVPと得点王です。自分の目標がプロやイラク代表にどうしてもなりたくて、その年に頑張ってリーグ得点王を取りました。(1部相当のAリーグの)ブリスベン・ロアーのスカウトが見に来てくれたことがあったんですけど、最終的にはきびしいという感じでした。いろいろ話を聞くと「Aリーグ以外のチームでプレーしている外国人枠の選手がAリーグに行くことは厳しい」と。それだったら自分はここでやる意味がないと思って別の国へ行きました。

両親の母国イラクへ

オーストラリアから離れてからは、AFCアジアチャンピオンズリーグプレーオフのみの契約でフィリピン1部グローバルFCに入団した。その後は、両親の母国イラクへ渡った字羽井は、2018年2月にイラク1部アル・カーラバーに加入。日本出身者では初めてイラク1部でプレーした選手となった。そこで新型コロナウイルスの感染拡大の中断期間を含めて約5年間プレー。2022年7月には同国1部リーグ最多14度制覇の名門アル・ザウラーSCに移籍した。そして昨年9月に同1部ノールーズSCに加わり、現在もイラクでプレーしている。

――イラクに行った経緯を教えてください。

自分は大学で1回挫折したんです。身体的な理由で2年間まともにサッカーができなかった。手術を終えてから「すべてを犠牲にしてでもイラク代表になりたい」というのが最終的な目標です。

そのためだけに頑張ろうというときに、フィリピンのチームの契約が終わった後、フィンランドのチームに行く予定だったんですね。ただそれが直前でなくなってしまって、1回オーストラリアに3カ月間だけ戻るんですよ。

そのときお父さんに「イラクはどうだ?」と言われました。1回日本でも挑戦する話はあったんですけど、イラクでプレーしたほうがイラク代表に近付けるんじゃないかと。そこが経緯ですね。

――移籍する前にイラクに行ったことはありましたか。

自分が小学1年生かな?1年生のときに行ったことがあるくらいです。それ以降はないですね。

――イメージ先行で申し訳ないですが、イラクは「治安が悪い」イメージがあります。イラクに行く前のイメージはいかがでしたか。

自分のイメージもあまり良くはなかったです。お父さんが何回か行っていたので、そんなに最悪とは思ってなかったですけどね。

――実際に行ってみてイメージは変わりましたか。

めちゃめちゃ変わりました。ニュースは大袈裟というか、(イラクは)安全です。むしろ夜中の10、11時に、日本では考えられないですけど、5、6歳の子供が遊んでいる。

自分は昭和を生きたことないですけど、そんなイメージというか、近所の全員が友だちというか、町で全員知っているような感じでむしろ安全です。

だからイメージは180度変わりましたね。

――多分日本でのイラク像はかなり良くないと思うんですよね。その乖離は危ないと思って聞きました。

そうなんですよね。友だちには「やばいんじゃない?」と最初は言われていたんですけどね。自分もインスタ(Instagram)とかで配信したりしていて、いまでは「イラクが危ない」という人は誰もいないです。

結局どの国でも犯罪はあるじゃないですか。その犯罪がたまにクローズアップされるだけで街中はまったくですね。インフラも大丈夫なイメージです。

変ぼうするイラクリーグと熱狂

イラクリーグは近年劇的な発展を遂げている。昨年6月4日にイラクサッカー協会は自国リーグのプロ化を推進するために、スペイン1部ラ・リーガとの3年間のパートナーシップ契約を締結。イラクのスタジアム、練習環境インフラの強化、技術面でのアドバイス、育成面の強化、マネジメントの指導など多岐にわたる面でラ・リーガのノウハウを取り入れる形でサポートを受ける。字羽井はこの変化を肌身で感じている。

――イラクの1部リーグはプレーしていかがですか。

自分が最初に行った当初といまのイメージはだいぶ変わりました。行った当初は毎試合ボールが違ったり、スタジアムは(ピッチコンディションが)最悪のグラウンドがあったりと…。その中でも選手個人のフィジカルなどはレベルが高かったですね。ただ環境面がひどかったですね。

ただいまはイラクリーグがラ・リーガと提携を結んで、ラ・リーガが使用しているボールを使っているんですよ。ラ・リーガが認めたスタジアムじゃないと試合できなかったりと。(提携は)今年からなんですけど、契約の媒体も全部変わりました。毎年レベルは上がってきていますね。

――そんな劇的な変化があったんですね。

そうですね。もともと1、2年前から徐々に良くなってきていましたね。イラクのサッカー会長が代わって、いまの(アドナン・ディルジャル)会長が「イラクを強くしたい。昔のイラクのイメージを取り戻したい」という方なのでイラク国内にすごく力を入れています。

それから国内のレベルがすごく高くなっていて、アジアチャンピオンズリーグではアル・クウワ・アル・ジャウウィーヤが(元フランス代表のFWカリム・)ベンゼマがいるアル・イティハドに勝って、ウズベキスタンのアルマリクに勝ちました。AFCカップではアル・カーラバーがヨルダンのチームに勝って、クウェートで有名なアル・クウェートに勝った。レベルは急激に上がっていると思います。

――字羽井選手のnoteでは、イラクの外国籍選手がほとんどアフリカ人と書いていましたけど、それは現在もですか。

結構変わってきています。いまはアラブ人、ブラジル人も来るようになりました。今年は適用されていないんですけど、来年からFIFAランキング90位以下の国は2選手までみたいなラ・リーガの規定があるそうですね。

――イラクと日本とのサッカーやカルチャーで驚かれたことはありますか。

カルチャーでいえば、国民一人、一人がサッカーをすごく好きなんですよ。だから1試合の勝ち負けでだいぶ環境が動かされるというか。それこそ勝ったときはすごく喜びますし、負けたときのサポーターのがっかりした姿やメディアの書き具合は日本じゃ考えられないくらいボロクソに言われますね。

サッカーの人気だったら日本より確実に人気があると思います。アラビア語でアル・カリージ(ガルフカップ)は、カタール、イラク、オマーンらと地域のカップ戦がイラクで開催されました。イラクは決勝まで行って、(2023年のガルフカップ決勝で)イラクがオマーンと試合して勝ったんですよね。7万人が入るスタジアムに5時間前なのに10万人が来ました。みんな入れなくなっちゃうぐらい国民のサッカーに対する熱がすごく高いです。

国内カップ戦のPVに集まるイラクのサポーター

――想像を絶する熱さですね。

ただ自分が去年在籍したチームが負けたらサポーターにボロクソ言われて、フェイスブックにめっちゃ書かれました。インスタグラムにもいっぱいメッセージが来ましたね。日本だとあるんですかね。

――日本ではあまり聞かないですね。

負けたときにめっちゃサポーターから野次を飛ばされたりしますね。本当にサッカー熱をすごく感じます。

――イラクでの印象深いエピソードがあったら教えてください。

それこそサッカー熱ですね。自分たちのチームがアウェイ戦で3、4万人入って満員になったんですけど、自分たちが1-0で勝ったんですよ。ピッチ内で喜びを分かち合っていたらサポーターが入ってきて、ダッシュでロッカールームに帰ることがありましたね(笑)。

ペットボトルや爆竹を投げられたことがあって、エピソードとしては印象深いなというかすごいなと思いました(笑)。

――クラブレベルの人気もすごいですね(笑)。

そうですね。むしろサッカー以外あまり人気がないというか…(苦笑)。(他の娯楽も)あるんでしょうけど、ほとんどの国民がみんなサッカーが好きというか。町を歩いていればヨーロッパサッカーがテレビで流れています。

イラク代表入りを目指して

イラクリーグでは主に攻撃的MFとしてプレーし、アル・カーラバー時代は2度イラクFAカップ決勝に進出して、準優勝を経験。2022年のイラクFAカップ決勝アル・カルフ戦では左MFで先発(登録名はアフメド・マフムード)するなど、イラクでも存在感を見せた。両親の母国での代表入りを目指す理由はこれまでの恩返しの一心だ。

――イラク代表に入りたい理由を教えてください。

親に対しての恩返しですね。両親がイラク人なので、そういう意味でも自分のルーツもイラクです。ここまで育ててもらってイラク代表になるくらいまで成長して代表になりたいと思いました。

――イラクの年代別代表に招集された経緯を教えてください。

(イラク挑戦)1年目の試合で結構いいプレーをして、「U-20代表に来ないか。来てくれ」という話がありました。そのとき(協会側が)自分の年齢を把握してなかったんです。U-20代表をお断りして、自分の年齢を説明しました。U-23代表もその1、2年後くらいかな。自分が24歳のときだったので、年齢的に入れないからお断りしました。

――ただ招集されたときは感慨深いものがありましたか。

もちろんです。やっと一歩ずつ認められているんだなと。一歩ずつ階段を上っている自覚はありましたね。

――強豪のアル・ザウラーに行くほどですからすごいですね。

アル・カーラバーでも2回イラク(FA) カップ決勝に行っています。アル・カーラバーはそんなビッグなクラブじゃないんですけど、自分が行ったときはリーグ戦で5位、2年目でイラクの決勝に行きました。5年目でももう一回イラク(FA) カップ決勝に行きました。ちょっと自分の力も入っているのかな。

――いままでA代表に声がかかったことはありましたか

A代表はないですね。そこもすごく悔しいです。(現在所属する)ノールーズというチームは、毎回リーグ戦で10位とかで終わっているんです。ただ今年は12試合で4位と自分もボランチで10試合3アシストくらいしています。

いまはケガしちゃって2試合出られなかったんですけど、ケガのとき以外は全部90分間プレーしています。チームはいますごく注目されているんですけど、代表からは声がかからない。すごく悔しい気持ちがあって「なんでだよ!」という感じではありますね。

中東の雄イラク

イラクとの対戦成績は7勝3分2敗と日本が勝ち越しているが、イラクはアジアカップ2007年大会で初優勝を果たしたアジアの強豪だ。直近の対戦成績は2017年6月に1-1と引き分けており、簡単な相手ではない。イラク代表を目指す字羽井に日本と対戦するイラク代表について聞いた。

――イラク代表の特徴を教えてください。

特徴はイラクサッカー協会の会長が代わって、その(アドナン)会長が「昔のイラクの強いイメージを取り戻したい」とイラクのためを考えてすごく行動する人なんですよね。前までなら代表に選ばれる選手はイラク内でプレーしている選手がほとんどでした。例えばハーフの選手やイラク外でプレーしている選手を積極的に会長自ら声をかけにいったりしています。だからいまは半分以上がイラク外でプレーしている選手ですね。

――ヨーロッパとイラクにルーツがある方が増えてきていますね。

会長自ら「代表でプレーしないか?」と交渉しています。そこでなおかつイラクの国内リーグもラ・リーガと提携してかなりレベルが上がってきました。2026年ワールドカップに出るためにチーム作りをしているという段階ですね。

――日本戦ではどのようなサッカーを展開しそうですか。

多分引いて守ると思います。守ってカウンターが主な戦術なんじゃないかなと。いまイラク国内でもすごく日本戦は注目されています。自分もインタビューされたりしたんですけど、(日本は)ずっと注目されていますね。

日本にすごくリスペクトがある。(その中で)イラクは強豪国といわれているコロンビア、ロシアと練習試合をしました。そこで(使った)同じ戦術を(日本戦でも)使われると思う。そこでやったことは「しっかり守備をするカウンター」。イラク人も守備に対する球際は強いし、前線に速い選手もたくさんいる。カウンターをされたら厄介なんじゃないかと思いますね。

――イラク代表はアジアカップでどこまで行きそうと考えていますか。

監督がスペイン人(ヘスス・カサス)で、ルイス・エンリケの元アシスタント(2018-2022)をやられていた方です。この監督になってから勝負強くなったんですよね。勝負強くなったので、グループリーグを突破したらベスト8、4は行くんじゃないかなと思いますね。

イラク代表のヘスス・カサス監督

――アザウィさんから見てイラク人のメンタリティーを教えてください。

めっちゃ負けず嫌いです。負けず嫌いで自己主張が強くて、「全部自分が正しい」みたいな。そういう国民性なので討論とかもすごいんですよ。例えばなにか一つの物事に対して全員が「自分はこれが正しいと思う」という。それがなかなか負けなかったりする。

サッカーでもこんな感じですね。自分が自分がという。我が強いですけど、団結になるとちょっと崩れちゃうというか。日本人みたいなメンタリティーじゃなくて、(ミスをすれば)「お前のせいだろ、お前のせいだろ」みたいなメンタリティーですかね。

――引いて守るサッカーだと組織力が大事になってくると思います。

そうですね。それこそ1点取られるまで組織力はすごく高いです。みんな同じ方向を向いている。ただ1点取られたときは結構バラつきが出て、ボロが出るというか。こっちはこうしたいし、こっちはなすりつけてとかで崩壊していくイメージがあります。

イラクのキーマンは二人

――日本にとって危険な選手を挙げるとしたら誰がいますか。

自分が思うキーマンは、アリ・ジャースィムという19歳の選手がいるんですよ。U-20代表の日本対イラク代表で日本代表をちんちんにしたみたいです。自分も一時期チームメイトでした。

もともとトルコ1部リーグからオファーがきていて行く予定だったんですけど、行かなったんですよね。今年の冬にトルコやポルトガルからオファーがきていて行こうとしていると聞きました。

ドリブルが上手くて、速くて、シュートも強いし、スルーパスも出せて、めちゃくちゃ体力があって(ピッチを)動き回ります。サイドもできて、トップ下もできます。

あともう一人は中盤のジダン(・イクバル)ですね。彼はマンチェスター・ユナイテッドのアカデミーでやっていて、いまオランダ一部(ユトレヒト)でやっています。まだ若いんですけど、テクニックが相当あってゲームコントロールが上手いです。ジダンは直接関わりがないので(詳細は)分からないですけど、多分ボランチかトップ下だと思います。

ジダン・イクバル

――イラクの弱点を挙げるとしたらどこになりますか。

ボールウォッチャーになるんで、DFの裏に対してのパス対応は悪いですね。先ほど言ったようにあまり組織力がないので、1点を取るまでは難しいかもしれないですけど、点を取ったら差は開くのかなというイメージがあります。

――日本代表のキーマンを挙げるとしたら誰になりますか。

絶対久保(建英)選手だと思います。引いているときに得点を取れたりするので、引いている相手に対して自分の個で打開して得点できる。それこそ(昨年11月の)シリア戦も遠いとこからミドルを撃って一気にシリアが崩壊したじゃないですか。ああいうことができるので、久保選手は別格でしたね。

――この試合に対するイラクへの期待を教えてください。

イラク国内では日本戦がすごく注目されています。前半0-0で抑えたりしたら、勝つことは難しくても引き分けとか、前線のパンチ力、破壊力はあるのでもしかしたらワンチャンス…。フィジカルやスタミナはイラク人独特なものがあるので、そこに期待したいですね。自分がいたらもっと良くなるだろうという目で見ています。

――日本と対戦することを考えると字羽井選手は出たかったですよね。今後の意気込みを教えてください。

めちゃめちゃ出たくてずっと目標にしていたんですけど、昨シーズンはあまりチーム的にも良くなくて、自分の結果も微妙だったので、めちゃめちゃ悔しいですね。

チーム的な目標でいうと(リーグ戦)ベスト4とカップ戦の優勝で、個人的には得点・アシストの数をどっちも最低5点以上はしたいなと思っています。

今シーズンは必ずリーグ戦ベスト4以内、カップ戦で優勝することがチームとしての目標です。チームが決勝に行って、自分が個人結果を出せば(協会や代表は)無視出来なくなるんじゃないかと思っています。そこを目標に頑張っています。

今回イラク代表を目指す字羽井は惜しくもメンバー入りを逃してしまったが、今後もイラク代表入りを目指して両親の母国で奮闘すると意欲を燃やしていた。

【インタビュー】元ベトナム代表監督三浦俊也さんが語るアジア杯日本代表vsベトナム代表

16日未明に行われたインドネシア戦では3-1でイラク代表は相手を一蹴した。勢いづいている中東の雄との対戦になるが、5度目の優勝を狙う日本にとって勝利しなければならない強敵だ。グループリーグ最大の山場から目が離せない。

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