「一人」の意識変化

 五・七・五の調べや季語にとらわれない自由律俳句の旗手だった尾崎放哉(ほうさい)(1926年没)に〈咳(せき)をしても一人〉の句がある。破天荒に生きたのち、病と貧困の中で詠んだ晩年の作と知れば味わい深い▲「一人」「独り」は孤独や寂しさをまとうが、「気ままな一人旅」というように「少しの自由」も感じさせる。一人カラオケ、神社仏閣の一人参拝、高級ホテルの一人泊…。その妙味を語る人も多い▲博報堂の生活総合研究所は、歳月を挟んで国民に同じ質問を投げかける「定点調査」をしている。「一人」にまつわる意識も、時代とともに変わったらしい▲93年、「意識して一人の時間をつくっている」のは27%で、30年後の昨年は49%に伸びた。「一人でいる方が好き」という答えは、93年の43%から昨年は56%に増えている▲横並びの行動を好んできた日本人が選択の幅を広げたとすれば、粋な変化だろう。放哉には〈こんなよい月を一人で見て寝る〉という句もある。寂しさが漂うが、月を独り占めして心ゆくまで眺める“ぜいたく”もにじむ▲被災地で独り暮らしをする親の安否を確かめる。家族は遠くに避難したが、自分はここに一人で残る…。災害時の「一人」が胸に迫るいま、「一人が好き」と言えるのは、穏やかな平時のしるしでもあると気付く。(徹)

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