ミャンマー覚醒剤汚染深刻 軍政統治及ばず、日本にも流入

ミャンマー・ヤンゴンの施設で、薬物依存を絶つリハビリの一環として汗を流す男性ら=2023年10月(共同)

 軍事政権の支配が揺らぐミャンマーで、少数民族武装組織の支配地域を中心に覚醒剤など違法薬物の製造が急拡大し、市民の汚染が深刻化している。「ヤーバー」と呼ばれる錠剤型の覚醒剤が1錠千チャット(実勢相場で約45円)で出回り、幅広い層が常用。周辺国を経由し日本やオーストラリアにも流入する。現地で実態を追った。(共同通信=木村一浩)

 ▽「幸せ」

 「気持ち良くて何も考えなくなる。家族や仕事はもちろん、酒もセックスも興味がなくなった」

 最大都市ヤンゴン。喫茶店を経営していたチョチョレさん(34)は「幸せな気分になりたくて」友人に勧められるまま手を出し、あっという間にヤーバーの常用者になった。入手は驚くほど簡単だ。密売人の連絡先が交流サイト(SNS)などで出回り、連絡すれば職場や家庭、学校にもバイクで届けに来る。「初めての客には5錠千チャットで安売りする密売人もいる」

 生産拠点の北東部シャン州はラオス、タイとの国境地帯で、ヘロインなどの原料となるケシ栽培が盛んな「黄金の三角地帯」の一角。少数民族の支配地域には、ケシ畑とヘロイン工場に加え覚醒剤などの製造工場が多数存在する。

 ▽野放し

 シャン州チャウメーで薬物中毒者を支援するティンマウンテインさんによると、2021年2月のクーデター後、軍政の統治が及ばず取り締まりが不十分な「野放し状態」。中毒者数は「2~3倍に増えた」という。2023年10月末に始まった少数民族の一斉蜂起後、状況はさらに悪化している。

 郊外の墓地には中毒者が集まり薬物にふける。ティンマウンテインさんは現場を訪れ、治療とリハビリを受けるよう説得を試みる。「対話するしか道はない」

 シャン州タウンジーの非政府組織(NGO)代表者は、軍政が活動を許可しないと明かし「民間組織が影響力を持つのを阻むためだ」と非難した。

 ▽2人に1人

 別の支援団体幹部は、軍政との接触を避ける国際NGOから資金が途絶え、活動を停止中だと語った。「過去20年の経験で今は最悪の時。州内では地域によって使用者が2人に1人、50%に迫っている」という。

 ミャンマー産覚醒剤の供給拡大ぶりを示すのが、隣国タイでの“卸値”急落。国連薬物犯罪事務所(UNODC)によると、組織間の売買を示す1キロあたりの価格は、2020年には約9800ドル(約140万円)だったが、2021年に5900ドル、2022年には4400ドルと半分以下になった。

 UNODCは、日本など東アジア諸国が「薬物供給の急増に直面し続ける」と警告している。

ミャンマー北東部チャウメーの墓地で、仲間と集まり違法薬物を注射する男性=2023年3月(ティンマウンテインさん提供、共同)
ミャンマー産覚醒剤の密輸ルート
ミャンマー・ヤンゴンのリハビリ施設で、薬物を常用するようになった経緯を語る23歳の男性(右)と17歳の少年=2023年10月(共同)
ミャンマー・ヤンゴンの施設で、薬物依存を絶つリハビリの一環として汗を流す男性ら=2023年10月(共同)

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