社説:安倍派幹部、不起訴 自民の病巣、温存は許されぬ

 「トカゲの尻尾切り」「死人に口なし」。そんな言葉を多くの国民が思い浮かべ、政権党への憤りと不信を高めていよう。

 自民党派閥の裏金事件を巡り、東京地検特捜部は政治資金規正法違反(虚偽記入)で、安倍派に属する大野泰正参院議員(岐阜選挙区)、谷川弥一衆院議員(長崎3区)、元会計責任者らに加え、二階派と岸田派の元会計責任者らも起訴した。

 一方、安倍派を主導する「5人組」を含む幹部議員7人については立件を見送った。

 大野、谷川両議員は政治資金パーティー券の販売ノルマ超過分について、5年間で4千万~5千万円超の還流を受けていた。派閥も議員側も政治資金収支報告書に記載せず、自由に使える裏金にしていたとされる。他の2派閥も、報告書に正しく記載をしなかった容疑である。

 還流は森喜朗元首相が派閥会長だった20年以上前から行われていたとの証言があり、時効にかからない直近5年に事務総長など要職にあった塩谷立、下村博文、松野博一、西村康稔、高木毅、世耕弘成、萩生田光一の7議員の関与が捜査の焦点だった。昨今の政権で閣僚や党三役としても権力をふるってきた。

 特捜部は7人に任意で聴取したが、会計責任者に不記載を指示するなど「共謀」を裏付ける証拠が固まらなかったとする。7人の中には、還流を「派閥会長案件」とし、亡くなるまで務めた安倍晋三元首相と、先代の細田博之前衆院議長に責任を向ける説明もあったという。

 これで捜査を区切るなら疑問が尽きない。還流による裏金は100人近い安倍派の大半が受けていたとされる。立件を線引きする根拠は何か。少なくとも裏金工作を管轄する立場にあった7議員は起訴し、司法の裁きに委ねるべきではないか。

 一方、政治責任は到底免れない。事件を受け、岸田文雄首相は出身の岸田派を解散するとした。安倍派や二階派も追随するようだが、問題を矮小(わいしょう)化し、批判をかわす狙いも透ける。

 自民の深刻な病巣は、派閥だけにあるのではない。形ばかりのパーティーを通して企業・団体から膨大なカネを非課税で吸い上げ、実質自由に使える「政策活動費」などの名目で議員の財布(政党支部など)に入れる。企業・団体との癒着を防ぐとして導入した政党交付金制度で、税金からも「二重取り」―。

 そんな不透明で特権的な集金・分配システムの下、国民でなくカネを出す業界を向いた政治で、政策をゆがめ、既得権を膨らませていないか。党の金権体質こそ国民不信の元凶だろう。

 岸田氏は自民党総裁として全派閥の解散を宣言し、規正法の抜本改正を打ち出すべきだ。政治資金の出し入れをデジタル化してガラス張りにし、政治家が責任逃れできないよう「穴」を防ぐのは必須である。

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