問題切実…人手不足で給食休止 離島の子育て脅かす 長崎・対馬島内

 昨年9月下旬、対馬島内を二分した「核のごみ」を巡る議論が決着したころ、北部の上対馬、上県両町では、子どもたちの「食」に関わる切実な問題が浮上していた。
 「当調理場の都合により給食の調理業務を休止させていただきます」。小中学校計4校に給食を提供する共同調理場で正調理員(定員6人)の退職、育休が相次ぎ、実働2人に減少していた。
 対馬市立比田勝小(児童103人)に通う2年生の娘が持ち帰ってきたプリントを見た時、30代の母親は「ついにこうなったか」と思った。調理場の人手不足は以前から耳にしていた。休止期間は10月第2週までの9日間。「食材を準備しないといけないし、朝もいつもより早く起きないと」
 シングルマザーなので家事、育児を1人でこなしながら、朝も娘を学校に送り出してすぐに出社。間に合うように5時半に起床していたが、弁当作りのため睡眠時間を30分削った。
 「給食が食べたいな」。休止期間中、それまで毎日の献立を見て楽しみにしていた娘がこう漏らした。「給食は栄養バランスの面からもしっかり提供してほしい。親としても子育ての負担が軽くなり、すごく助かる」
 学校給食法は「義務教育の学校設置者は給食が実施されるよう努めなければならない」と規定。長崎大教育学部の榎景子准教授=教育行政学=も「貧困状態の子どもは一定数おり、現代では給食はセーフティーネットの役割も果たしている。地域の実情によって影響を受けることはあってはならない」と指摘する。
 だが市教委も手をこまねいていたわけではない。昨年4月から初任給(月額)を3900円増額し13万6200円とした。それでも応募者はいなかった。
 大前提として深刻な人口減少がある。島内6町が合併し対馬市が発足したのは2004年。翌05年の人口は約3万8千人だったが、15年後の20年には約1万人減の2万8千人台にまで落ち込んだ。高齢化率は4割近くまで上昇し医療・福祉の人材需要は増加。さらに新型コロナ禍明けで韓国人ら観光客が戻るにつれ飲食・サービス業も次第に活気づき、人手の奪い合いが起きている。それを物語るように、昨年10月の長崎県内ハローワーク別の有効求人倍率(原数値)は対馬の1.41倍が最高だった。
 現在、比田勝小を含む4校の給食は宿泊施設に白米の炊飯を委託するなどして何とか提供している。調理員も市教委職員の声かけなどで、今月までに新たに2人を採用したが、それでも定員には届かない。2年生の娘の母親は「これからも給食がちゃんと続くのか」と不安を隠せない。


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