〈支え合ってともに 1.1大震災〉「君ソム」聖地、営業再開 七尾・お好み焼き店「平野屋」

営業を再開し、お好み焼きを作る杉本さん(右)=七尾市本府中町

  ●断水の中「少しでも元気を」 作者もエール「支援したい」

 七尾市を舞台とした漫画「君は放課後インソムニア(君ソム)」に登場する同市本府中町のお好み焼き店「平野屋」が21日までに、営業を再開した。能登半島地震で打撃を受け、断水も続いているが、同じ被災者に「おいしいものを食べて少しでも元気を出してほしい」と決断した。作品に登場した店や施設が多くの被害に見舞われる中、君ソムの作者やファンから送られたエールも力に復興へ歩み出している。

 君ソムは漫画家オジロマコトさんが「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で連載していた作品で、不眠症という同じ悩みを共有する男子高生の中見丸太(なかみがんた)と女子高生の曲伊咲(まがりいさき)の青春がテーマ。平野屋は2人の友人の実家として描かれ、昨年公開されたアニメと実写映画にも登場する。

 物語の舞台を巡る「聖地巡礼」の一環で県外ファンも訪れていた店は地震で、冷蔵庫や電子レンジ、エアコンが壊れるなどの被害を受けた。平野屋を営む杉本祐一さん(45)によると、営業休止中の売り上げも含めれば、損害は1500万円ほどになる。

 地震直後から避難所で炊き出しを手伝っていた杉本さん。避難した住民が日に日に疲れていく様子が目に見えて分かったという。「何とか店を開け、日常を取り戻してあげたい」と、近所の住民から分けてもらう井戸水なども使い、お好み焼きや鉄板焼きなど一部のメニューに限って16日から再開している。

 「君ソム」で縁を結んだ県外のファンからも支援が寄せられている。作品がきっかけで名古屋市から月1回、七尾市を訪れるようになったファンが差し入れを持って店を訪れてくれたほか、小学館の編集者からも応援を申し出る連絡があった。

 同じく作品に登場する中山薬局は全壊、能登食祭市場は駐車場が液状化するなど多くの「聖地」が被害を受けたが、復興へ向け前に進んでいる。作者のオジロマコトさんはX(旧ツイッター)で、能登各地の被害に心を痛めているとした上で、「関係者・出版社と連携して、支援してまいります」と表明。杉本さんは「うれしいし、力になっている。しんどいけど、頑張っていかないと」と懸命に前を向いている。

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