〈1.1大震災~連載ルポ〉「離れたら戻られん」 孤立集落の輪島・三井町細屋

市中心部で買い物をしてきた本谷さんから食料を受け取る岡田さん(左)=19日午後3時25分、輪島市三井町細屋

  ●とどまる4人、物資と山水で命つなぐ

 多くの被災者が孤立集落を逃れて避難する中、地域にとどまる住民がいる。輪島市の山あいに位置する三井町細屋。19日、石川県の馳浩知事がほぼ孤立は解消したと宣言したが、現地に足を運ぶと、4世帯4人が支援物資と山水で命をつないでいた。「ここでも最低限の暮らしはできる」「いったん離れたら、もう戻られん」。離れようと思えば、出て行ける環境にはなった。それでも、2次避難を拒む背景には、故郷を失うことへの不安があった。(前輪島総局長・中出一嗣)

 三井地区の西側にある細屋は、四方を山に囲まれた小さな集落。幹線道路へつながる道は土砂崩れでふさがれ、行き来するには農道を歩くしかない。

 倒木をくぐり、入り口付近にある民家を訪ねると、住人の岡田健二さん(63)が出てきた。妻は2年前に他界し、高校1年の長男は市外にある義妹の家へ避難。現在、1人で暮らしているという。

 岡田さんの額には大きな傷があった。1日の地震で倒れてきたタンスに頭をぶつけたというが、「消毒だけで病院には行っていない」と岡田さん。治療と避難を勧めたものの、首を縦に振ってはもらえなかった。

 倒壊を免れた築80年の木造家屋は、強い余震がくれば倒壊する恐れもある。石川県や市は命を守るため、より安全な場所に移る2次避難を促しているが、応じるつもりはないという。

 いったん市外の安全な場所に身を寄せ、落ち着いたら帰って来る選択肢もある。だが、岡田さんは「新しい生活を始めたら、もうここには戻って来られん気がする」とかたくなだった。「この状況じゃ、嫁さんの三回忌はしてやれんけどな」。別れ際、岡田さんはつぶやいた。

 岡田さんら一部の住民が集落を離れないことから、区長の垣地太良三郎さん(75)も自宅に残る。「みんながおるから、わしは離れられん」。足りない生活物資については、孤立化していない隣の集落まで歩き、知人に車を借りて市街地で調達している。

 断水が続くが、山水を引いており、水は足りているという。「雨漏りもしないし、やっぱりわが家がいいわ」。こちらも現時点で2次避難する考えはないという。

  ●わが身を最優先に

 一方で、避難を検討する住民もいた。1人暮らしを続ける会社員の本谷章さん(62)は、地震の影響で勤め先の業務がストップしているといい、「仕事が始まったら、ここからじゃ通勤できん。そうなったら市街地に移るしかないかな」と話した。

 誰しも、住み慣れた地域を出るのは大きな不安を伴う。ただ、今は何よりわが身を最優先してほしい。あの大地震を生き延びた大切な命なのだから。

倒木でふさがれた集落へと続く道=19日午後3時10分

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