〈1.1大震災〉稼働3カ月で新工場被災 氷見の特殊印刷会社 沈下、地割れ傷跡深く

地面が隆起し、大きく亀裂が走った工場敷地=氷見市七分一

 「動かして3カ月しかたっていないのにショックですわ」。氷見市の特殊印刷会社「トライ・プリント」の中村豊社長(59)は、昨年秋に稼働した新工場が能登半島地震で被災し、腕組みする。同市七分一に開設した「技術開発センター」は建物が沈下し、事務所部分の床と天井に大きなすきまができた。アスファルトの駐車場は隆起で大きな地割れが発生し、修復のめどは立っていない。

 工場は新規事業として釣り竿の印刷・塗装加工を手掛けるため市の学校給食センターだった建物を購入して増改築した。内装は壁を残して一新したが、地震で建物は沈み、壁にも亀裂が入るなど痛々しい姿になってしまった。

  ●機械被害ないが量産計画見直し

 印刷機械に被害はなかったものの、今月中旬に予定していた従業員の研修は遅れ、3、4月に量産に入る計画は変更を余儀なくされる可能性が出てきた。従業員は多くが家の片付けや断水の影響で5日の仕事始めにも出社できず、業務に遅れが生じているという。

 中村さんは「お客さんは心配してくれたが、仕事を待たせることになったのが心苦しい」と打ち明ける。

 市消防団阿尾分団長を務める中村さんにとって新年は激動の幕開けとなった。還暦の厄払いをして自宅に戻った時に地震に襲われた。部屋のタンスや棚が崩れて体に覆い被さってきた。必死で、ドアのすき間から顔を出してなんとか外に逃げ出した。

  ●中村社長、地域の安否確認に奔走

 阿尾地区は海岸近くの集落。津波警報で住民が高台に避難するため動いていた。近所の人から「早う避難せんといかんよ」と声をかけられた中村さんだが、消防団としての責任感が上回り、一番先に逃げてはだめだと考えた。逃げ遅れた人がいないか、地域の状況の確認に動いた。

 安全な高台から海を眺めたところ、海岸周辺の水が驚くほど引いていた。津波が来る前兆だった。しばらくすると、波が引いては堤防に打ち付ける光景を何回も目にした。

 その後は自治会役員らと協力してお年寄りらの安否確認に走り回った。公民館や高台にある市斎場などに逃げた人もいたが、所在がはっきりしない人も。海岸近くの倒壊しそうな家に残っていた人を見付け、元気な声を聞いて安堵した。

 中村さんは新事業に乗り出す今年、未曾有の地震で「マイナスからスタートになった」と嘆く。それでも落ち込んでばかりはいられない。地震の猛威を胸に刻みながら、必ず立て直してみせると自らに言い聞かせている。

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