JAL機炎上事故の教訓…緊急脱出時に何ができるか 専門家に聞いてみた

1月2日に発生した羽田空港での航空機衝突事故、とてもショッキングな出来事で、現在、原因の究明が急がれています。安全が最優先される航空業界での事故ということで、飛行機をよく使う方はもちろん、あまり飛行機を利用しない方も衝撃的な事故の映像に驚かれたと思います。そこで、航空旅行アナリストの鳥海高太朗さんに、この事故の原因や今後のセキュリティについて、SBSラジオ『IPPO』パーソナリティの青木隆太アナウンサーが聞きました。

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青木:改めて今回の事故について、率直にどのようにとらえていますか?

鳥海:本来起こるべきではない形での衝突ということで、かなり衝撃的でしたが、JAL機に関しては、けが人もほとんど出なかった奇跡的な部分も大きかったと思います。

青木:あらためて今回の事故について紹介しますと、2日の午後6時前、北海道・新千歳空港から東京・羽田空港に向かっていた日本航空516便が、着陸した直後に、海上保安庁の航空機と衝突しました。そして、この事故で海上保安庁の航空機に乗っていた6人のうち、5人の死亡が確認されました。なぜ、このような事故が起きてしまったのか、現在わかっている範囲で教えてください。

鳥海:一番の理由は海上保安庁の飛行機が管制塔からの離陸許可が出ていないのに、これを離陸許可と勘違いをして、滑走路上に入ってしまったことです。40秒ぐらい滑走路で停止してたわけなんですが、着陸予定のJAL機と管制官が進入している海上保安庁の飛行機に気づかなかった、回避することができなかったということで、JAL機のパイロットは直前まで気づかずに衝突してしまったということが、今わかっていることです。JAL機の方はエアバス350という非常に大きな飛行機だった。逆に海上保安庁の飛行機は、ボンバルディアの小さい飛行機だったということで、結果的には大きい方の飛行機の方の損傷の方が少なかったようです。

天候が悪くもなかったのに なぜ、回避できなかったのか

青木:事故の原因が少しずつわかってきている中で、鳥海さんが気になるポイントはどこでしょうか?

鳥海:今までも、この滑走路に誤進入したケースはありましたが、大抵の場合はパイロットないしは、管制官の方で気づいて、最終的に着陸しようとしている飛行機の着陸を止めて、ゴーアラウンド(Go-around)という形で再び上昇することによって、衝突を回避していたのが、今回はJAL機側、それから管制塔側、そして海上保安庁のパイロットも含めて、気づかなかったというところに事故のポイントがあって、誤進入したことも問題ですけど、それ以上に、今回は特に天候も悪くなくて、夜で暗かったっていうことはありますけど、そのような状況で起こったということを考えなければいけないと思います。

青木:外的要因として、事故の原因に直接つながったものは、あまり考えられないということでしょうか?

鳥海:外的な要因というか、やはり一番は海上保安庁の方が英語で管制塔と役割の更新をするのですが、その解釈を間違ってしまったっていうか、そこが一番大きいのかなと思います。

青木:解釈を間違ってしまったというのは、こういう業界の言葉というのは、何か一律で解釈が統一されているものではないんですか?

鳥海:統一されてまして、今回「No.1」という英語が出てきましたけど、これは「次に離陸する飛行機ですよ」という解釈で、世界中のパイロットがわかっていることなんですが、この「No.1」という用語を、どうしてかわからないですが、一番最初に離陸する飛行機=もう離陸許可が出たと勘違いをしてしまったという、普通は考えられないようなミスになるかなと思います。

似たような事故はあったのか?事故防止策は?

青木:今までこのような航空機の事故が発生したり、もしくは発生しそうになったりした事例はありますか?

鳥海:発生しそうになった事例は、日本国内でも1年に1回ぐらいの形ではあります。重大インシデントということで、国土交通省で調査をするという大きい案件にはなりますが、最終的には着陸する側の飛行機が気づいて、着陸を取りやめてまた再び上昇するっていう形で回避ができているケースがほとんどで、衝突したっていうケースは最近あまり聞かないです。

青木:ものすごい衝撃でぶつかって爆発して、機体も炎上していた中で、JAL機の乗務員と乗客全員が無事に外へ脱出できたことは奇跡という言葉がありましたけれども、いかがでしたか?

鳥海:JAL516便は17時47分に着陸して、最終的に機長が全員の脱出を確認したのが18時5分と、18分間で脱出が完了したということですが、着陸したポイントから駐機した場所まで1kmぐらい走行しているし、扉を開ける時間とか、緊急脱出のシューターを出す時間などを考えると、実質10分前後ぐらいで、300人を超える乗客全員を脱出させることができたということなので、これはすごいことです。日頃から1年に1回は必ず客室乗務員は、エマージェンシー訓練という厳しい試験のような緊急時の脱出訓練をやっていたということで、スムーズにできたのかなと思います。

青木:今後、日本を初め、世界的に空港や滑走路、誘導路などで、こういった事故を防ぐべく、オペレーションというのは変わっていくんですか?。

鳥海:基本的には今までもそれほど大きな事故起こっていないので、オペレーションを大きく変えるというより、まだ確認取れてませんが、海上保安庁の飛行機に関しては民間機に比べると衝突防止の機能でついてなかった機能もあったのではないかというところもありますので、目視で人間ができるところと逆に機械に頼った方がいいところ、ここの両方の部分で、もう少し徹底しなければいけないのかなと思います。

カバンの持ち出しもできない緊急脱出 何ができる?

青木:1月16日には北海道の新千歳空港でも接触事故がありましたが、こちらについてもお伺いしていいですか?

鳥海:こちらに関しては、プッシュバックといって、飛行機の最終的な出発準備ができた後に、飛行機を牽引するんですけど、今、北海道は氷点下7〜8度ぐらいの状況で、大韓航空の飛行機がプッシュバックをしていたとき、香港のキャセイパシフィック航空の飛行機にスリップして左側が接触してしまったということです。ここに関して言うと、これもグランド・ハンドリング・スタッフが、 雪で凍っている中でスリップしてぶつかってしまったということで、JAL機の場合とは内容は異なりますが、ここもやはり慎重にやらなければいけなかったなっていう部分はあると思います。

青木:規模感としては、どういうふうに受け止めればいいんですか?

鳥海:基本的に軽く接触したというぐらいなので、誰かがそれによってものすごい衝撃を受けたというよりは、軽くこすったというような衝撃がある程度の形になりますので、人命に関しては全く問題ないです。ただ飛行機に関しては、かなり修理しなければいけないので、今回、大韓航空、それからキャセイパシフィック航空ともに、すぐには飛行機が使えませんので、乗客がスケジュール的に混乱してしまったという状況です。

青木:最後に私達が安全に飛行機に乗るにあたって、乗る側の客として気にかけておくべきポイントがあれば教えてください。

鳥海:基本的に飛行機はものすごく安全な乗り物ですので、特別に気にかける必要はないと思いますが、今回のように緊急脱出ということになったときは、カバンも含めて持ち出しが不可能で、持ち出せるのはポケットに入れているものだけということになるので、財布とか本当に大事なものでポケットに入れられるものはポケットに入れておくことが大事なのかなと思います。

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