「避難所でもお湯が何度も使えた」断水が続く能登に強い味方「水を98%再利用できるシャワー」 被災者が自ら運用、新しい支援の形に

能登半島地震の被災値に設置されたWOTAの水循環機器=1月10日、石川県珠洲市

 能登半島地震の被災地では、長期にわたる断水が生活再建の大きな障害になっている。能登半島6市町のほぼ全域で水が使えない。水道管の損傷箇所特定や浄水場の被害復旧は容易ではなく、復旧の見通しが立っていない。自衛隊による入浴支援は避難者から好評だが、大がかりな設備で、5トンを貯水する給水車が日々不可欠で、支援範囲には限界がある。
 そこで注目を集めているのが、少量の水を再生利用し、より多くの人がシャワーを浴びることができる水循環機器だ。被災地でこのシステム構築を手がけるWOTA(東京)のCEO、前田瑶介さん(31)に同行すると、被災者自らが先を見据えて機器を運用する、新たな支援の形が見えてきた。(共同通信くらし報道部)

設置された簡易シャワー=石川県能登町

 ▽「100リットルを100回使える」
 WOTAは地震発生直後から現地に社員を派遣し、開発した水循環機器を避難所へ配備。水を再生利用する手洗いスタンドと簡易シャワーを設置する活動に取り組んでいる。
 この機器の特徴は、いったん使われた水をフィルターや塩素、紫外線などで処理し、98%以上を再生利用できる点にある。簡易シャワーでは、給湯器につないで温水を出せる。石けんやシャンプーを洗い流した水も処理が可能だ。通常のシャワーは1回当たり約50リットルの水が必要なのに対し、100リットルを約100回使えるメリットがある。
 地震発生から10日目。石川県珠洲市の緑丘中に開設されている避難所を訪れた。ここは3日に簡易シャワー2基が設置され、多くの被災者が汗や汚れを流している。10日ぶりに入浴したという石川県珠洲市の男性(23)は笑みを浮かべて感想を話してくれた。
「風呂に入れない日がいつまで続くか不安な気持ちだった。お湯が出るありがたさを感じた」

WOTAの手洗いスタンド

 珠洲市内はほぼ全戸で断水が続いている。泉谷満寿裕市長は断水の長期化を示唆している。
 「浄水場がまるごと届けばいいのだが、そういう訳にはいかない。送水管もずたずただと思う。数か月かけないと復旧できない」
 水が使えないため衛生面の問題は深刻だ。インフルエンザなど体調を崩す避難者も急増。市の総合病院の外来も殺到しており、対応に追われている状態だという。
  「避難者は疲労の色が日に日に濃くなっている」。泉谷市長は危機感をあらわにする。避難所の多くは使える水が限られ、溜めた水で手を洗っているケースもある。入浴は叶わず、ぬれたタオルやウェットティッシュで体をふくだけの対応をしている避難所がほとんどだ。衛生環境の改善には流水によるシャワーや手洗いが不可欠として、市内の多くの避難所で水循環式の簡易シャワーや手洗いスタンドを導入したい考えだ。

珠洲市の泉谷満寿裕市長(右)と打ち合わせをするWOTAの前田瑶介さん=珠洲市役所

 各地の自治体も支援に乗り出している。千葉県富津市は将来の災害に備えて保有している水循環機器9台のうち、8台を被災地へ提供。徳島県は、県内自治体が持つ計15台を送った。
 機器を提供した静岡県藤枝市の担当者は「少しでも被災者の手助けになれば」と話した。ただWOTAによると、半島全体の断水の規模や復旧までの期間を考慮すると、さらに多くの機器が必要になると見込んでいる。

簡易シャワーを設置する作業

 ▽中学生の被災者も「何か力になりたいと思っていた」
 水循環機器をより広範囲の被災地に展開しようとすると、課題が浮かび上がる。管理・運営をする人手だ。断水が今後も続き、機器を長期間使用する必要がある場合は、なおさら人手不足が重い負担になる。
 そこでWOTAの前田さんたちが働きかけ始めたのが「自律運用」。避難者自身がフィルター交換や入浴順の予約などを担い、運用する。

取材に応じる橋元ひろみさん(左)

 珠洲市緑丘中の避難所で、入浴支援の運営を担っている避難者の橋元ひろみさん(65)は、手応えを感じている。
 「メンテナンスが一番心配だったが、若い人たちがとても上手に対応してくれている。シャワーブースが来てから、避難所全体で衛生に対する意識が高まっている」

 緑丘中では、機器の操作や入浴場所の掃除などを行う中高生もいる。その一人、中3の桶田一成さん(15)も意欲的だ。「何か力になりたいと思って申し出た。入浴した人の笑顔を見るとうれしくなる」

珠洲市の避難所となっている緑丘中学校

 10日夜、前田さんたちが向かったのは、珠洲市に隣接する能登町の小木中学校。この時点で約200人が身を寄せていた。ここを訪れたのは、避難者から会社のSNSにこんなメッセージが届いたためだ。
 「断水は回復の見込みがないようです。避難所で発熱者が続発しています。支援よろしくお願いします」

避難所となっている小木中学校にある感染症対策を呼びかける張り紙=能登町

 前田さんはすぐに町に連絡を取り、シャワーを開設することにした。脱衣所となるテント、シャワーを設置し、循環機器や給湯器の配線をつなぎ、水を入れる―。設営に掛かる時間は15分程度だった。さらに、町役場の担当者らと調整し、翌日から地元住民による運用が始まった。前田さんは力を込める。
 「一日でも早く能登半島全体をカバーしたい」

能登町の避難所でタンクに水を入れるWOTAの前田さん(右)

 ただ、その場合も自律運用が前提だ。
 前田さんらに同行する前は、避難者自らに運営に当たることはさらなる負担をかけることになるのではないかと漠然と思っていた。しかし、その予想は間違いだった。同行した時点では、避難者がそれぞれの立場で「できることをやろう」という姿勢を持っていた。
前田さんは、避難者のこうした思いが、被災地の水問題解決の一助になると説明する。
「支援側の要員が現場に張り付いていては、迅速に広げ、より広域で運用することができなくなる。自律運用を前提とすることで、より多くのエリアで長く展開できる」

石川県能登町で設置された簡易シャワー

 ▽国全体で支える仕組みを
 丸一日の密着を終えた別れ際、前田さんはこう強調した。「災害時の水と衛生の問題は、阪神大震災や東日本大震災、熊本地震など過去の災害でも大勢が苦しんだ。そろそろ根本的な対策がなされるべきだ。技術的に解決できるはずなのに、自分たちの準備不足で再発してしまっている。もう見過ごせない」
 今回、各地の自治体が率先して被災地へWOTAの機器を送ったように、政府や自治体が平時の備えとして断水対策の設備を保有し、プッシュ型で提供する仕組みが必要だ。財政的に余力のない自治体のためには、設備を調達する費用補助も有効だろう。被災地で衛生的な環境を実現するための取り組みが求められている。

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