「楽に死なせて」懇願され、ALS嘱託殺人公判・被告医師「安楽死」傾倒人生語る

京都地裁

 難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患う女性から依頼され、薬物を投与して殺害したとして、嘱託殺人などの罪に問われた医師大久保愉一(よしかず)被告(45)の裁判員裁判の第5回公判が22日、京都地裁(川上宏裁判長)であり、弁護側による被告人質問が行われた。大久保被告は2018年に開業した自身のクリニックについて、当初は「安楽死風看取(みと)りセンター」として計画していたことを明かした。

 大久保被告は同計画について、「死を意図的に早めるのではなく、自然な形で苦しまないように人生を閉じられる施設にしたかった」と述べた。「安楽死」に傾倒した背景については「医者人生の中で、生きるのが苦しい、どうにもならない方を現実に見てきた」と説明した。

 医師を志した経緯は、小学生の頃に親戚の子が死産した際、医者に冷たく扱われたことから「患者に寄り添うような、心のある医者が居てくれたら」と思うようになったと回顧。大学の医学部に進学した理由を「世の中の役に立てる人間になりたかった」と語った。

 大学卒業後は複数の病院で勤務し、病に苦しむ患者に「楽に死にたい」と懇願された経験などから、「本人の希望がないがしろにされるのは、尊厳が保たれているとは思えない」と考えるようになったと述べた。

 一方、安楽死を巡って大久保被告が交流サイト(SNS)に書き込んだ内容についても問われた。

 患者の安楽死を請け負う漫画の登場人物「ドクター・キリコ」に触れた意図を聞かれると、「技術を発揮して苦痛を取り除いてあげる点に共感した。自分の悩んできたことに通じる部分はある」と説明した。

 今月11日の初公判で、大久保被告は嘱託殺人罪について「女性の願いをかなえるために行った」と述べ、弁護側は自己決定権を保障した憲法に違反するとして無罪を主張している。

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