【中国】車輸出1位の裏に柔軟な戦略[車両] 国ごとに内燃車と電動車使い分け

中国の自動車輸出が昨年世界一になったとみられることに関して、同国自動車業界の柔軟な地域戦略が成果を上げていることが、業界団体の統計で浮き彫りとなった。中国はロシアやメキシコに対してガソリン車輸出を急激に増やし、一方で欧州などに対しては電動車輸出を拡大することに成功した。各国の内燃機関車と電動車の需要を周到に見極めたことが輸出台数を押し上げた格好だ。

中国自動車業界団体、全国乗用車市場信息聯席会(CPCA)の崔東樹秘書長が21日、税関統計などを基にした23年の詳細な自動車輸出統計を発表した。

同統計によると、中国の23年の自動車輸出台数は前年比54%増の522万台。20年からは4.8倍に急伸した。23年の輸出台数は日本を上回って世界1位になることがほぼ確実。日本自動車工業会によると、日本の23年1~11月の輸出台数は399万台だった。

中国の23年の輸出台数のうち、「新エネルギー車(NEV)」(電気自動車=EV、プラグインハイブリッド車=PHVなどを指す概念)は前年比55%増の173万台だった。

■対ロシアなどはガソリン車メイン

崔氏が発表した統計からは、中国自動車業界が国ごとにガソリン車など内燃機関車の輸出に注力するか、NEVの輸出に力を入れるかメリハリをつけていることが見て取れる。

内燃機関車の輸出に関しては、ロシアやメキシコに対する輸出で大きな成果が出た。

23年のロシアへの輸出台数は前年比5.6倍の90万9,049台。大半が内燃機関車で、NEVはわずか2万110台だった。メキシコへの輸出台数は62%増の41万5,075台で、うちNEVは1万7,053台にとどまった。

ロシアは中国にとって最大の自動車輸出先で、メキシコは2番目に大きな輸出先。中国はNEVの競争力が急速に向上しているため、NEVが自動車輸出をけん引している印象を持たれるが、ロシアやメキシコなどに対するガソリン車輸出の拡大も全体の増加に大きく貢献している。

岡三証券の久保和貴シニアエコノミスト(同社上海代表処の首席代表)は、新興国は充電インフラが整っていないことから内燃機関車の需要が強く、中国自動車業界はこうした状況を見て新興国に対しては内燃機関車の輸出に注力する傾向があると指摘した。

ロシアに関しては、ウクライナとの軍事衝突を機に西側諸国から輸出規制を受けていることが中国製自動車の需要拡大につながったと付け加えた。

■欧州主要仕向け先、新エネ車率65%超

一方、中国自動車業界は欧州(ロシア除く)に対してNEV輸出に注力している。

23年の自動車輸出台数を仕向け地別に見ると、上位10カ国のうち3カ国は欧州で、いずれもNEVの比率が非常に高い。3位のベルギーは、全体の輸出台数が21万7,371台で、このうちNEVは19万8,030台に上った。5位の英国は21万3,812台のうち13万9,195台がNEV、10位のスペインは13万8,741台のうち9万7,018台がNEVだった。NEVの比率はベルギーが90%を超え、英国とスペインはともに65%を超えた。

20年時点では自動車輸出台数の仕向け地別上位10カ国に欧州の国は入っていない。中国自動車業界は欧州諸国がここ数年、電動車の普及を進めていることに迅速に対応し、欧州輸出を伸ばした。

欧州輸出は価格が高い傾向にあるNEVが中心となるため、輸出単価が高い。23年の英国とベルギーへの輸出単価はともに2万8,000米ドル(約414万円)で、ロシアの2万1,000米ドル、メキシコの1万2,000米ドルを大きく上回る。

久保氏は、中国自動車業界は新興国への内燃機関車の輸出、欧州へのNEV輸出を輸出拡大の軸にしているとの見方を示した。

■EUの相殺関税、大きな打撃にはならず

こうした状況の中、欧州連合(EU)は昨年から中国製電動車に対して相殺関税をかけるかどうかの調査に乗り出している。仮に相殺関税を課すことになれば、中国自動車輸出の軸の一つである欧州へのNEV輸出が影響を被る可能性がある。

相殺関税が課せられた場合に関して、久保氏は「中国自動車業界は一定の影響を受けるだろう」と指摘。ただ中国のNEVは、相殺関税を課せられても、なお欧州で一定の価格競争力を維持できるとし、中国のNEV輸出が大きく縮小することはないと見通した。

加えて、比亜迪(BYD)などの中国NEVメーカーがいち早く新興国市場の開拓に向けた準備を進めていることも指摘。新興国でNEVインフラの整備が進んだ際に、中国ブランド車が消費者の第一の選択肢になる状況をつくり出そうとしており、中国の自動車輸出の見通しが基本的には良好であるとの考えを示した。

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