韓国五輪の裏でヤクザたちの利権抗争が勃発!ユ・オソン×チャン・ヒョク競演『狼たちの墓標』はド直球ノワールアクション映画

『狼たちの墓標』© 2021 ASCENDIO CO., LTD., DAYDREAM ENTERTAINMENT CO., LTD., BON FACTORY CO., LTD., JOY N CINEMA CO., LTD., ALL RIGHTS RESERVED.

韓国映画といえばヤクザノワール

韓国映画の大定番といえば“ヤクザノワール作品”だろう。最近このジャンルは、シリアルキラーがヤクザと対決するマ・ドンソクの『悪人伝』(2019年)や、潜入捜査官モノの『新しき世界』(2013年)など、<ヤクザ+α>要素を盛り込んだ秀作が多い。

そんな中で、慈悲深い昔かたぎのヤクザと冷酷非情な新興ヤクザが真正面から激突するという超どストレートな映画が、今回紹介する『狼たちの墓標』(2021年)だ。

五輪利権をめぐり韓国港町の治安がドン底に

2008年、黄海沿岸のグンサン市。遭難した密航船と思われる船の中から、同船していた仲間を殺しその死肉を食べて生き残った一人の青年が救助された。

――時は移り、平昌オリンピック直前の好景気に沸く日本海沿岸のリゾート地カンヌン市。この土地を支配するのは、秩序と義理人情を重んじるオ会長率いるヤクザ組織。その組織の有力者キルソクは、圧倒的な武力を持ちながらも暴力ではなくカリスマ性と話し合いでトラブルを解決してきた。

オ会長はそんなキルソクの実力を評価し、彼の兄弟分を差し置いて巨大リゾート開発の筆頭株主に任命、そのプロジェクトを任せていた。しかしある日、二番手の株主であるミンソクが現れ経営への参画を要求。ミンソクはかつてグンサンに流れ着いた難民で、自身の親分であるナム会長を殺害してその持ち株を奪い、カンヌンに乗り込んできたのだった。

人を殺めることにためらいのないミンソクは、多重債務者に因果を含めて自身の代わりに出頭させる方法で、これまで一切逮捕されずにきた冷酷非情な男。やがてミンソクはオ会長をも暗殺し、キルソクの兄弟分や仲間に次々と襲い掛かる。キルソク自身も重傷を負うが奇跡的に復活し、ミンソクへの復讐を開始する……。

ユ・オソンとチャン・ヒョクが血で血を洗う抗争で正面衝突

主人公のキルソクを演じるのはユ・オソン。オソンは『チング』シリーズ(2001年ほか)で知られるが、個人的には『アタック・ザ・ガス・ステーション!』(1999年)の知恵が足りない大男ムデポ役や、ボクシング映画『チャンピオン』(2002年)も印象的な俳優。本作では重厚なキルソクを貫禄たっぷりに演じている。

対するミンソク役はチャン・ヒョク。『火山高』(2001年)で映画主演デビューし、大ヒットドラマ『チュノ ~推奴~』(2010年)に主演。『僕の彼女を紹介します』(2004年)などのラブコメも得意とするが、やはりボクシングで鍛えた身体能力を活かしたアクションがとにかく上手い俳優である。特に本作のクライマックスでの1対10の戦いでは、その本領を完全発揮。格闘技然としていないアクションシーンで、まるで野生の獣のような戦いっぷりにドギモを抜かれること請け合いだ。

大量の血を吸ったリゾート施設の空虚な風景

そんな本作のテーマは「時代の変化」。海水浴場でしかなかったカンヌンが、平昌オリンピックを機に大規模開発が始まり、街にはドラッグがあふれ始める。ヤクザの役割も、街の地回り的なもので刃物も使わなかったが、別都市の組織の参入で仁義もへったくれもない血で血を洗う抗争に突入していく。

「目には目を、歯には歯を」でエスカレートしていく抗争の中で、昔かたぎのキルソクは大きな判断を迫られることになる。これはカンヌンに生まれ育ったユン・ヨンビン監督の、変わりゆく故郷への感慨が強く影響していると思われる。映画のラスト、リゾート施設の空虚な風景を見ながら、登場人物は、そして映画を観てきた我々は何を思うだろうか? ということを問われるような作品なのである。

文:高橋ターヤン

『狼たちの墓標』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年1月放送

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