社説:大津市長再選 住民の力を引き出す市政に

 大津市長選で、現職の佐藤健司氏が再選を果たした。市政の転換を掲げた元滋賀県議で新人の成田政隆氏を退けた。

 投票率は36.61%で、過去2番目の低さにとどまった。元日に能登半島地震が発生し、市の防災対策も課題に浮上したものの、大きな争点は示されず、有権者の投票行動には結びつかなかったといえる。

 市政の継続は決まったが、佐藤氏の得票は全有権者数の2割に届いていない。多様な声に耳を傾け、市民と丁寧な対話を通して施策を進めてほしい。

 選挙では、4年間の佐藤市政への評価をはじめ、中心市街地の活性化や地域公共交通の廃止・減便対策、子育て支援策などが議論された。

 市の人口は、京都市内などで続く住宅価格の高騰を背景に増え続けている。中心部ではマンション開発が加速する一方、周辺部では少子高齢化が進み、二極化が顕著になっている。

 国の推計によると、現在34万5千人余りの大津は、2025年あたりに人口のピークを迎え、50年には32万人になると見込む。市内の出生数は13年からの10年間で2割以上も減少している。人口減少を見据えたまちづくりは避けられない。

 1期目の佐藤氏は、コストカットや組織のスリム化を掲げた前市長の方針を転換した。36カ所の市役所支所の統廃合を中止し、道路改修などへの積極的な支出も進めてきた。選挙でも、こうした取り組みを前面に掲げて「市政を後戻りさせない」と訴えた。

 ただ、次の任期中に市が「縮小」に入るとみられる中、従来の発想のままで進めば、市政の安定性が揺らぎかねない。施策の取捨選択や、優先順位付けがいっそう問われよう。費用対効果の多角的な検討や、事業の検証も重みを増す。

 市内には路線バスの減便を受け、自分たちの力でコミュニティーバスを走らせる住民がいる。琵琶湖の水上交通を、観光客の市内周遊に使えないかと検討する事業者もある。

 人口減は公共サービスの維持を難しくする。削減や負担増など住民合意が必要な場面も増えよう。災害など非常時の備えも含め、住民の知恵や力を引き出すさらなる工夫が欠かせない。

 その点で気がかりなのは、1期目の佐藤氏に対し、選挙で「市長の顔が見えない」との声が少なからず聞かれたことだ。新人候補に7800票余りまで迫られたことは、謙虚に受け止めてもらいたい。

 催しへの参加や各種媒体などを通した発信で、自治体リーダーとしての考えを、自らの言葉で積極的に語ってほしい。

 大津に、滋賀の県都らしい活気がないと言われて久しい。市長と市民が、まちの現状や将来展望を共有し、個性が輝く都市づくりへギアを上げたい。

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