反響の大きさに驚き、北野天満宮の名刀「鬼切丸」の外装制作

2023年11月末にスタートした、「北野天満宮」(京都市上京区)が所蔵する太刀「鬼切丸(別名髭切)」の外装「拵(こしら)え」を新たに制作するプロジェクト。1500万円の費用を募るクラウドファンディングをおこなう発表会見では、記者から「集まらなかったらどうするのか」といった意見もあがっていた。

しかし、なんと開始から88分で目標を達成、現在(22日時点)約4450万円が集まっており、担当者は「本当にありがたいこと」と反響の大きさに驚いている。プロジェクトの経緯や思いについて、改めて聞いた。

「北野天満宮」宝物殿前にて。右から北野天満宮の東川楠彦総務部長、北野文化研究所・松原史博士、京都女子大学の学生たち(1月19日)

■「繋いでいく、継承する」北野天満宮の歴史

平安時代に作られ、国の重要文化財に指定されている「鬼切丸」。源頼光の家臣が鬼の腕を切り落としたという伝説があり、源頼朝や新田義貞らの手を経て、最上家の家宝として受け継がれてきた。近年では「鬼切丸」をモデルにしたキャラクターが登場するオンラインゲーム『刀剣乱舞』をきっかけに、「北野天満宮」を参拝する若い世代が増えている。

右が『刀剣乱舞』に登場する「髭切」(2023年10月28日、北野天満宮にて)

「鬼切丸」には拵え(刀身を納める鞘や握る部分の柄、鍔などの外装)がなく、参拝者から「力になりたい」「支援したい」との声が多く寄せられていたという。

北野天満宮の東川楠彦総務部長は、「北野天満宮では、50年ごとに『大萬燈祭』、その間の25年ごとに『半萬燈祭』を斎行し、そのたびに文化財の再調査や研究、修繕をして、貴重な文化や伝統を繋いできた歴史があります。今回、2027年の『半萬燈祭』にあたり、たくさんのお声があった『鬼切丸の新たな拵え』を制作するのはどうか、ということになったんです」と経緯を話す。

「北野天満宮」宝物殿の特別展示にて(2023年10月28日撮影)。重要文化財「太刀鬼切丸(髭切)」

■ 「令和の時代にしか作ることのできない拵えを」

プロジェクトに参画するのは「北野天満宮」と、高い技術をもった工芸家グループ「KOGEI Next」、そして「京都女子大学」生活造形学科の学生たち。三者が力を合わせて、新たな拵えを制作していく。

「KOGEI Next」のアドバイザーであり、学生たちにデザインとアートマネジメントを教えている京都女子大学の前﨑信也教授は、「令和の時代にしか作ることのできない唯一無二の拵えを制作し、北野天満宮に奉納するという目的があります。100年後に令和の工芸を振りかえったときに、自信を持って言えるものを作りたい」とコメント。

『鬼切丸 髭切 太刀拵え奉納プロジェクト』のメインビジュアル。京都女子大学の学生が作成した

拵えには、「都市鉱山」と呼ばれる、携帯電話やPCで情報伝達のために使われていた金や銀をリサイクルして使用。「北野天満宮」の境内整備の過程で出た木材などの古材も利用し、過去と現在が融合する史上初の試みとなるという。

「令和の我々が、50年後、100年後と次の時代にどう伝えていくか。都市鉱山、京都女子大学の学生さんたちの若い感性、そして職人さんの技術。流行りに乗っかって作るとかそんな軽いものではなく、賛同者のみなさんも含めて『みんなで新しい歴史を繋いでいきましょう』という思いがあります」と、東山氏は期待を込める。

■ 目標の3倍超で「理想の議論ができている」

クラウドファンディングの期間は1月25日・夜11時59分までだが、現在(22日時点)目標の約3倍である4450万円が集まっている。担当者は「今まさにミーティングを重ねているところ。多くの方に賛同いただけたことで、拵え制作にあたっての理想の議論ができています。すべての方が納得するようなものを、これからしっかり形にしていきます」とコメント。

日本刀剣史を専門とする原田一敏氏がアドバイザーとなり、文化財を守るためのルールを遵守し、過去と未来が融合するような太刀拵えを制作していくという。拵えの完成は26年春頃の予定。

返礼品は、未来へ受け継がれる奉納箱・奉納目録への名前の掲載、オリジナルデザインの記念品、北野天満宮から出た古材を使用した特製の梅型銘々皿など。学生たちはリターン品のデザインや発送、SNSでの広報などをサポートしている。

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